このような疑問に答える記事です。
病院に勤務する作業療法士の中には、理学療法士と業務内容があまり変わらず、自身の役割が何だかわからなくて悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
実は作業療法士の役割は多岐にわたり、特に在宅の分野では専門性を大きく発揮できる可能性があります。
そこで本記事では、訪問看護における作業療法士の役割について解説します。
- 訪問看護における作業療法士の役割
ぜひ最後までお読みください。
目次
そもそも作業とは?
訪問看護における作業療法士の役割を確認する前に、「作業」とは何なのかをおさらいしておきましょう。
作業とは、食べたり入浴したり、人の日常生活に関わるすべての諸活動のことです。
作業の定義を踏まえたうえで、作業療法士の役割を見ていきましょう。
作業療法士には、作業を通して心身の機能回復や維持に働きかけたり、作業そのものを練習して習得させたりする役割があります。
たとえば「洗濯物を干す」という作業において、各要素と作業療法士が関わるべきポイントを考えてみましょう。
- 洗濯機まで移動する:動線の環境調整
- 洗濯物を取り出す:取り出す際の上肢の筋力や可動域の評価・練習
- 洗濯物を運ぶ:運ぶ際に使用する入れ物の選定
- 洗濯物のシワを伸ばす:衣類の形を認識したり、適切な力で扱えているかの評価・練習
- 洗濯バサミに挟んだりハンガーにかけたりする:両手の協調性や手指機能の評価・練習
- 洗濯物を物干し竿にかける:立位バランスの評価・練習や、使用する物干し竿の選定
上記のように、洗濯物を干す動作はさまざまな要素に分かれており、各要素に対して作業療法士が専門的に関われる部分がたくさんあります。
訪問看護における作業療法士の役割
訪問看護では、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士はそれぞれの専門分野の垣根を越えて介入している場合もしばしばあります。
ただその中でも、作業療法士として特に長けている分野があります。
訪問看護において、作業療法士が特に役割を発揮できる分野には、以下の3つがあります。
- 精神疾患に対するリハビリテーション
- 環境整備
- 自助具の選定
それぞれ見ていきましょう。
精神疾患に対するリハビリテーション
訪問看護の作業療法士の役割に、精神疾患に対するリハビリテーションがあります。
精神疾患を抱えている利用者さんは多岐にわたり、訪問看護を必要とするケースは少なくありませんが、訪問できる職種は限られています。
作業療法士はその限られた職種の一つであり、特に作業を通じたリハビリテーションが専門です。
たとえば、精神疾患による体重の変動や引きこもりといった問題に対して、作業療法士は個々の状況に応じて運動プログラムを作ったり、外出の方法を一緒に考えたりします。
利用者さんの趣味や興味のある活動を一緒に考え、作業活動を取り入れることで、達成感や自己効力感を高めるよう支援します。
また、家事や買い物といった生活関連動作を通じて社会参加を進めれば、引きこもりの解消にもつながるでしょう。
環境整備
環境整備と聞くと、手すりをつけたり歩行補助具を使用したりといった、物的な環境整備を想像する方が多いのではないでしょうか。
もちろん作業療法士には、物的な環境整備により利用者さんの動作能力を改善させ、安全に生活を送れるようにする役割があります。
しかし、精神疾患や認知症などをお持ちの方は、物的な環境整備だけでは動作が改善しない場合もあるのです。
当事業所の作業療法士が経験した事例を紹介します。
認知症がある方で、手すりを導入してもうまく使えず、立ち上がりの介助量が大変多い状態でした。
動きたくない気持ちが強いこともあり、物的な環境整備をしても解決できません。
生活歴を聞いたところ、認知症と診断される前は、毎朝ラジオ体操をしていたとのこと。
そこでラジオ体操の曲を流してみたところ、動く意欲が以前よりも向上し、立ち上がりの介助量を減らすことができたとのことでした。
このケースでは利用者さんの生活歴から、好きな活動をきっかけに環境整備をしたことで、動作能力が改善する結果となりました。
作業療法士は、物的な環境整備をすることはもちろんですが、利用者さんのバックグラウンドを考慮した広い視点での環境整備も求められます。
自助具の選定
訪問看護における作業療法士の役割の中で、自助具の選定も重要です。
作業療法士は学生の頃から自助具に触れる機会が多く、知識が豊富であるため、臨床に出てからも自分で作ったり院内の備品から選定したりすることを求められるからです。
在宅での食事動作を例にあげると、安定した座位姿勢を保つための機能訓練は理学療法士の専門分野ですが、作業療法士はその先の摂食動作に関して自助具の選定を求められます。
病院のようにたくさんの備品がある場所では色々と試して評価できますが、在宅では物品が限られているため、その場でできる対応策を考えなければなりません。
そのような場合に、機転を利かせて適切な自助具を提案できる作業療法士は、在宅で非常に重宝されるでしょう。
まとめ
今回は、訪問看護における作業療法士の役割について紹介しました。
以下の3点がその役割となります。
- 精神疾患に対するリハビリテーション
- 環境整備
- 自助具の選定
在宅の分野では職種の専門性のみにとらわれず、幅広く介入できる姿も望まれます。
しかし、作業療法士の専門性に特化した介入も重要です。
広い視点を持ちながらも、訪問看護における作業療法士の役割を忘れないようにしていきましょう。