訪問看護の事業承継連載⑥:『自分で事業承継をする〜訪問看護ステーション事業承継ガイドライン〜』

 

坪田

はじめまして。

看護師の坪田康佑です。

これから13回にわたり、『訪問看護の事業承継連載』を執筆させていただきます

よろしくお願いいたします。

 

前回の連載内容はこちら

 

連載者プロフィール

坪田康佑

一般社団法人訪問看護支援協会

訪問看護ステーション事業承継検討委員会/一般社団法人訪問看護支援協会
国家資格:看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など
その他資格:MBA、M&Aアドバイザー、メディカルコーチングなど
2005年慶應義塾大学看護医療学部卒、2010年米国NY州Canisius大学MBA卒、国際医療福祉大学博士課程在籍。株式会社コーチエィにてコーチングに従事。ETIC・NEC社会起業塾を経て、無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業。体調を崩し、2019年全事業売却。ユニーク看護師図鑑を運営。

 

【執筆者著書紹介】

 

前回の連載では、ケアプランを作成する際にケアマネージャーに依頼するか、またはセルフケアプランを自分で作成するかという選択肢があることをお話ししました。

これと同様に、事業承継を進める際も、専門家に依頼するか自分で行うかの選択が可能です。

今回は、自分で事業承継を実施する際に強力な支援となる「訪問看護ステーション事業承継ガイドライン」を紹介します。

このガイドラインは、事業承継プロセスを自力で進める訪問看護ステーションの経営者にとって、実用的な情報や事例を提供する重要な味方です。

 

訪問看護ステーション事業承継ガイドラインとは?

今まで連載してきたように、訪問看護ステーションの持続可能な未来を考える上で、事業承継は欠かせない要素です。経済産業省中小企業庁は中小企業の経営者の高齢化に対応し、円滑な事業承継をサポートする目的で2006年に事業承継ガイドラインを策定しました。

このガイドラインは定期的に最新情報に更新され、2022年にはその第三版が公開されています。中小企業ガイドラインは詳細で高品質な内容を有していますが、訪問看護事業者にとってはその広範な情報が活用しにくい側面があります。

継続する全ての事業は、法人の代表交代も含めると事業承継が必ず行われてきており、事業承継は必ず考えるものの一つという位置づけです。訪問看護業界の特有の傾向ですが、事業承継を考えることは、逃げとしてとらえていたり、成功した事業承継も金銭目的とネガティブに捉えられることがありました。

というのも、指定訪問看護ステーションの歴史は1999年4月に営利法人経営が認可されて以来約20年と比較的浅く、事業承継に関する事例やノウハウが業界全体として不足していたことが考えられます。これにより、事業承継がタブー視されることがありました。

この課題を解決するため、一般社団法人訪問看護支援協会は訪問看護ステーション特有の状況を反映した、新たな「訪問看護ステーション事業承継ガイドライン」の作成を提案しました。この提案を受けて、2020年には訪問看護ステーション事業承継検討委員会が設立され、2022年7月28日には新ガイドラインが完成しました。これは訪問看護ステーションの事業承継を具体的に支援するための資料で、業界の大規模化に向けた寄与できるように出来ています。

 

訪問看護ステーション事業承継検討委員会での内容

「訪問看護ステーション事業承継検討委員会」は、ガイドラインの各語句に深い意味を込め、慎重に文書を作成しました。例えば「承継なのか?」「継承なのか?」一文字ずつ丁寧に紡いでいきました。選択した、「承継」という言葉の選択には、事業のみならず、創業者の大切にしてきた理念や魂も引き継ぐという深い意味が込められています。

当ガイドラインは、事業承継プロセスをスムーズに進め、次世代へ業務を安全に引き継ぐための包括的な手引きとして構築されました。基本的なプロセスから具体的な課題とその解決策、成功事例や失敗事例に至るまで、詳細にわたって解説されています。訪問看護ステーションの特性を考慮し、事業承継計画の策定、後継者の選定と育成、必要な法的手続きについて、段階的にわかりやすく説明しています。これにより、後継者不足や創設者の高齢化などの課題を持つ訪問看護ステーションにとって、今後の成長と発展のための貴重なリソースとなります。また、失敗事例を挙げることで、事業承継が訪問看護ステーションの業績維持・向上にどのように寄与するかを具体的に示しています。

 

ガイドラインの主な内容

1.訪問看護ステーション創業者の意志を受け継ぐ事業承継
2.訪問看護ステーションの事業承継の考え方・流れ
3.訪問看護ステーションの価格の算定
4.事業承継時の注意点
5.事業承継の事例紹介
6.事業承継の支援

 

訪問看護ステーション事業承継検討委員会とは?

訪問看護ステーション事業承継検討委員会は、事業承継の専門知識と実践経験を持つ多様なメンバーで構成されています。一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会代表理事であり、ビジネス・ブレークスルー大学教授の大原達朗氏は、その広範な知見を提供しました。

また、ソフィアメディ株式会社の創業者であり、大型事業承継の経験を持つ故水谷和美氏や、小規模事業承継の経験を持つ本著者の坪田康佑氏が、それぞれの豊富な経験から知見を提供しています。

 

訪問看護ステーション事業承継検討委員会名簿

(敬称略、五十音順、◎座長)

大原 達朗
公認会計士 一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 代表理事
ビジネス・ブレークスルー大学教授

奥津 啓太
弁護士 弁護士法人ほくと総合法律事務所

河野 淳平
福祉用具貸与専門員 株式会社グリーングロース 代表取締役

小濱 道博
小濱介護経営事務所 代表

◎高丸 慶
看護師 一般社団法人訪問看護支援協会 代表理事

坪田 康佑
看護師 一般社団法人医療振興会 代表理事

戸谷 由布子
弁護士 TTS法律会計事務所
博士(医学)公衆衛生学修士

水谷 和美
ソフィアメディ株式会社 創業者 顧問

 

加えて、訪問看護支援協会の高丸慶さんは、多数の事業承継支援実績を持ちながら、自身も事業承継を受けた経験と事業承継を行った経験を有しています。高丸さんは訪問看護事業承継の複雑さを実体験から理解し、その貴重な視点を委員会に提供しています。彼の参加により、委員会が提供するガイドラインや解決策は、より実践的かつ具体的な内容へと深化しています。

法律面では、奥津啓太弁護士や戸谷由布子弁護士(医学博士、公衆衛生学修士)、介護報酬に関する専門家としての小濱道博氏、福祉用具貸与専門員の河野淳平さんが、それぞれ独自の視点から貢献しています。

このように、委員会はメンバーそれぞれの専門知識、経験、視点を結集させ、訪問看護ステーションが直面する事業承継の課題に対して、実効性のあるガイドラインや解決策を提供しています。

 

最後に

このガイドラインを完成させる上で、水谷和美さんの貴重な貢献は欠かせませんでした。彼の深い洞察力と尽力がなければ、この包括的なガイドラインを作成することは困難だったでしょう。

2023年5月には、水谷さんが私たちを離れ天国へと旅立ちました。

この知らせは私たち全員にとって大きな衝撃であり、深い悲しみをもたらしました。

しかし、彼が遺した業績は訪問看護ステーションの事業承継の道を開き、今後も多くの人々を支援していくことでしょう。

水谷さんのご冥福を心からお祈りするとともに、彼の遺志を継ぎ、訪問看護ステーション業界のさらなる発展のために努力を続けてまいります。

 

【水谷和美さんの書籍】

 

 

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引用・参考文献

1)中小企業庁:事業承継ガイドライン第3版,p31,2022
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf

2)訪問看護ステーション事業承継検討委員会:訪問看護事業承継ガイドライン2022/11/16

 

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ABOUT US
坪田 康佑
一般社団法人訪問看護支援協会/訪問看護ステーション事業承継検討委員会/一般社団法人訪問看護支援協会 国家資格:看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など その他資格:MBA、M&Aアドバイザー、メディカルコーチングなど 2005年慶應義塾大学看護医療学部卒、2010年米国NY州Canisius大学MBA卒、国際医療福祉大学博士課程在籍。株式会社コーチエィにてコーチングに従事。ETIC・NEC社会起業塾を経て、無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業。体調を崩し、2019年全事業売却。ユニーク看護師図鑑を運営。