精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)(Ⅲ)を算定するには、毎月「GAF尺度」による評価を記録・記載することが要件になっています。しかし、GAF尺度は評価の仕方が独特で、慣れないうちは点数のつけ方に迷う看護師も少なくありません。
この記事では、GAF尺度の評価基準・点数の付け方・診療報酬算定での記載義務を、具体例を交えてわかりやすく解説します。
- GAF尺度とは何か、DSM-5との関係
- GAF尺度の10段階の評価基準
- GAF尺度の点数のつけ方(3段階の手順)
- 精神科訪問看護の診療報酬算定における記載義務
- 明細書・報告書・記録書それぞれの記載方法
目次
GAF尺度とは?
GAF尺度(Global Assessment of Functioning:機能の全体的評定尺度)とは、成人の社会的・職業的・心理的機能の状態を1〜100の数値スケールで評価するツールです。数値が大きいほど精神面が健康であることを示します。身体的・環境的な制約による障害は含まず、あくまで精神障害・知的障害による機能の障害のみを評価対象とする点が特徴です。評価の際は、診断名や検査数値だけでなく、日常生活における具体的な様子(食事・入浴・対人関係など)を丁寧に聞き取ることが、より実態に即した点数付けにつながります。
GAF尺度は、もともと米国精神医学会の診断基準DSM-Ⅳ-TRの多軸診断体系(第Ⅴ軸)で使われていた評価尺度です。2013年公表のDSM-5では多軸診断体系そのものが廃止され、GAFも正式な診断ツールからは外れました。しかし日本の精神科訪問看護の診療報酬制度では、令和2年度改定以降、現在も算定要件として運用が続いています。国際的な診断基準と国内の診療報酬制度で扱いが異なる点は、知っておくと理解が深まります。
GAF尺度の評価基準
GAF尺度は10点刻みの10段階に区分されており、各段階には「重症度」と「機能レベル」の2つの評価軸があります。
| 点数 | 状態の目安 |
|---|---|
| 100〜91 | 症状がない |
| 90〜81 | 軽い症状 |
| 80〜71 | 最小限の症状 |
| 70〜61 | いくつかの軽い症状 |
| 60〜51 | 中等度の症状 |
| 50〜41 | 社会的・職業的機能に重大な障害 |
| 40〜31 | より重大な機能障害 |
| 30〜21 | 著しい機能障害 |
| 20〜11 | 最小限の現実吟味 |
| 10〜1 | 自他への危害のリスク |

GAF尺度の評価の仕方・注意点
GAF尺度の評価には、いくつかの独特なルールがあります。
- 重症度と機能レベルの評価が異なる段階に該当する場合は、より点数の低い方を採用する
- 評価は「評価日から1週間遡って、一番悪かった状態」を基準にする
- 1の位(小数点にあたる部分)は評価者が判断し、前後の段階との比較で7〜9・0(高め)、1〜4(低め)、5(中間)を目安に決める
点数を決める3段階の手順
- 手順1:段階の絞り込み過去1週間で最も状態が悪かったエピソードをもとに、高い段階から順に照らし合わせ、条件に合う段階を選ぶ。
- 手順2:一段階下の確認選んだ段階のすぐ下の段階が当てはまらないことを確認し、選択の妥当性を検証する。
- 手順3:1の位の決定その段階の中での相対的な位置づけをもとに、1の位(0〜9)を決定する。
訪問看護における評価の具体例
実際の評価プロセスを、3つの事例で確認してみましょう(既存記事の事例をもとに再構成)。
| 事例 | 状態 | 評価点 |
|---|---|---|
| Aさん(うつ病) | 焦燥感・不眠あり、作業所で一時的なトラブルもその後和解 | 65点(重症度・機能レベルとも70〜61の中間と判断) |
| Bさん(統合失調症・退院3か月) | 頻回な幻聴・不眠・意欲低下、デイケア数日休止、家族関係悪化 | 52点(60〜51だが改善傾向がなく50〜41に近いと判断) |
| Cさん(うつ病) | 意欲低下・感情平板化、他者支援で身の回りのケア、社会活動なし | 41点(重症度60〜51・機能レベル50〜41で低い方を採用し40〜31に近いと判断) |

GAF評価は「重症度」と「機能レベル」のどちらか低い方を採用するというルールを忘れがちです。事例Cさんのように、症状面より生活機能面のほうが悪いケースでは、機能レベル側の点数を採用することを意識しておきましょう。

なぜGAF尺度による評価が求められるのか
精神科の訪問看護は、身体疾患のように検査数値で状態を客観的に示すことが難しく、支援の必要度や重症度を第三者が把握しづらいという特性があります。GAF尺度を毎月記録することで、利用者の精神的機能の変化を数値として可視化し、訪問看護の効果測定や支援計画の見直しに活用することがねらいとされています。あわせて、診療報酬の算定においても、支援の必要性を客観的に説明する根拠資料としての役割を担っています。
そのため、GAF値は単に記載義務を満たすためだけの数字ではなく、利用者の状態変化を継続的に追うための臨床的なツールとして活用することが望ましいとされています。前月のGAF値と比較して大きく変動している場合は、その背景にある生活状況の変化を訪問看護記録に残しておくと、多職種連携やケース会議の場でも説明がしやすくなります。
評価者による差を減らす工夫
GAF尺度は評価者の主観が入りやすい尺度でもあります。同じ利用者でも、担当する看護師によって数点のばらつきが出ることは珍しくありません。事業所内で評価基準の解釈を統一するために、次のような工夫が有効です。
- 過去の評価事例を事業所内で共有し、評価の目線合わせを行う
- 評価に迷った場合は、複数の看護師で確認し合う運用にする
- 前月との比較を必ず行い、大きな変動があれば理由を記録に残す
- 異動・新規採用等で評価者が変わるタイミングでは、特に目線合わせを重点的に行う
診療報酬算定にはGAF尺度の記載が必要
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)または(Ⅲ)を算定する場合、月の初日の指定訪問看護時におけるGAF尺度の判定値を、訪問看護記録書・訪問看護報告書・訪問看護療養費明細書の3つすべてに記載することが要件になっています。この記載義務は3つの書類それぞれで様式が異なるため、記載担当者が変わっても抜け漏れが生じないよう、事業所内でチェック体制を整えておくことが望まれます。
それぞれの記載方法
| 書類 | 記載方法 |
|---|---|
| 訪問看護療養費明細書 | 「特記事項」欄の「10 GAF」を○で囲み、判定値と判定年月日を記載 |
| 訪問看護報告書 | 「GAF」欄に判定値および判定年月日を記入 |
| 訪問看護記録書 | 月初日の訪問時にGAF値を記入 |
3つの書類のうち1つでも記載が抜けていると、算定要件を満たさないと判断されるおそれがあります。月初日の訪問時には、その場でGAF値を記録する運用をルーティン化しておくと記載漏れを防げます。
厚生労働省Q&A
月初日の訪問看護の内容によって、GAF尺度の判定方法が異なるケースがQ&Aで示されています。こうした個別ケースでの判断に迷った場合は、自己判断せず、地方厚生局や審査支払機関に確認することをおすすめします。
月初日の訪問看護が家族への訪問のみだった場合は?
判定は必要ありません。ただし、判定が行えなかった旨を訪問看護記録書等に記載します。
月初日は家族への訪問で、2日目以降に本人への訪問を行った場合は?
当該月において、利用者本人に訪問看護を行った初日にGAF尺度の判定を行うことで差し支えないとされています。
新任スタッフへのGAF評価の教育
GAF尺度は精神科での臨床経験が少ないスタッフにとって、評価の勘所をつかむまでに時間がかかることがあります。訪問看護ステーションでは、新任スタッフが単独でGAF評価を行う前に、次のようなステップを踏むと安心です。
- 同行訪問での評価練習ベテラン看護師と同行し、実際の利用者を見ながら評価点をすり合わせる。
- 評価根拠の言語化「なぜその点数にしたのか」を口頭・記録上で説明できるようにする。
- 定期的な振り返り月ごとの評価推移をカンファレンス等で確認し、評価のブレがないかチェックする。
- 評価マニュアルの整備事業所独自の評価事例集やチェックポイントをまとめた資料を作成し、いつでも参照できるようにする。
算定前に確認したいチェックリスト
- 精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)(Ⅲ)を算定する利用者かどうかを確認したか
- 月初日の訪問看護時にGAF尺度の判定を実施しているか
- 月初日が家族対象訪問のみの月は、その旨を記載しているか
- 記録書・報告書・明細書の3書類すべてに判定値と判定年月日を記載しているか
- 評価は「評価日から1週間遡って最も悪かった状態」を基準にしているか
- 評価者間でGAF値にばらつきが生じていないか、定期的に確認しているか
GAF値の推移だけを見て支援方針を判断するのは避けましょう。GAF尺度はあくまで機能評価の一つの指標であり、利用者本人・家族からの聞き取りや、他の観察情報とあわせて総合的に状態を判断することが基本です。
よくある質問
GAF尺度はどんな利用者に評価が必要ですか?
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)または(Ⅲ)を算定する利用者について、月初日の訪問看護時に評価・記載することが求められます。
GAF尺度はDSM-5でも使われていますか?
DSM-5では多軸診断体系が廃止され、GAFは正式な診断ツールから外れました。ただし日本の精神科訪問看護の診療報酬制度では、現在も算定要件として運用が続いています。
重症度と機能レベルで評価が分かれた場合はどうすればよいですか?
重症度と機能レベルの該当段階が異なる場合は、より点数の低い方を採用するというルールになっています。
GAF値が前月より大きく下がった場合、何をすればよいですか?
数値の変動そのものよりも、その背景にある生活状況・症状の変化を確認することが重要です。訪問看護記録に変化の内容を具体的に残し、必要に応じて主治医への情報提供や訪問頻度の見直しを検討します。数値の一人歩きを避け、あくまで支援の質を高めるための材料として活用する姿勢が大切です。

まとめ|評価ルールと記載義務をセットで押さえよう
GAF尺度は、国際的な診断基準からは姿を消しつつも、日本の精神科訪問看護制度では今も重要な評価ツールとして位置づけられています。評価のばらつきを防ぐ工夫と、3つの書類への記載を確実に行う運用の両方を整えることが、安定した算定につながります。
- GAF尺度は1〜100点で精神的機能を評価する10段階の尺度
- 重症度と機能レベルで評価が分かれる場合は低い方を採用する
- 精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)(Ⅲ)算定には月初日のGAF評価が必須
- 記録書・報告書・明細書の3書類すべてに判定値と判定年月日を記載する
- 月初日が家族訪問のみの場合は、判定不可の旨を記載すればよい
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