訪問看護におけるナラティブ・アプローチ

 

ナラティブ・アプローチで利用者さんに寄り添った看護ができるって本当ですか?

 

訪問看護は、病院や施設とは異なり、利用者さんの生活の場で提供されるケアです。

そのため、単に病気や障害を診るのではなく、利用者さんの生活や価値観を尊重した看護が求められます。

本記事では、訪問看護における「ナラティブ・アプローチ」について解説し、利用者さんの物語に寄り添うケアの重要性について解説します。

 

ナラティブとは?

 

ナラティブ(narrative)」とは、物語や語りを意味する言葉です。

医療や看護の分野では、利用者さんが語る自身の経験や人生の物語を大切にし、それをもとにケアを考えることを指します。

例えば、同じ病気や障害を抱えている人でも、これまでの生き方や価値観は一人ひとり異なります。

利用者さんがどのような人生を歩み、どのような思いを抱いているのかを知ることは、より良いケアを提供するうえで欠かせません。

 

ナラティブ・アプローチとは?

 

ナラティブ・アプローチとは、利用者さんの物語を通じて、その人の悩みや課題を理解し、解決に導く方法です。

このアプローチでは、訪問看護師が利用者さんの語りをじっくりと聞き、その背景や価値観を尊重しながら支援します。

 

ナラティブ・アプローチの基本的な進め方

 

基本的な進め方
  • 利用者さんの語りに耳を傾ける
  • 利用者さんが自由に話せる環境を作り、過去の経験や思いを聞く
  • 問題を客観的に捉える
  • 利用者さんの語りを整理し、何が課題となっているのかを理解する
  • さまざまな角度から質問を行う

 

私たちは、実は生活の場の様々な場面で物語を育んでいます。

何かの出来事を思い出すときや、それを誰かに語るときは、いくつかの場面を組み合わせて、何かの繋がりがあったものとして筋書きをつけていき、相手にわかるようにおもしろく話したりするものです。

例えば、「今までどのように病気と向き合ってきましたか?」といった質問を通じて、利用者さんが何を見て、何を感じて、何を考えて、どう行動したのか、どう結果として起きたのかを、物語を通じて語ります。

さらに聞き手がいることによって、物語はいきいきとしていきます。

その結果、利用者さんの思考や価値観を深く知ることができます。

このように単に物語を語ってもらうだけではなく、私たち訪問看護師は利用者さんの語りを整理し、何が課題となっているのかを理解するために例外的な話を見つけだす必要があります。

そして「以前、調子が良かったときはどのように過ごしていましたか?」など、ポジティブな経験にも注目できるように質問していきましょう。

これまでの物語だけでなく、オルタナティブ・ストーリー(新しい代替え)で、新しい視点や可能性を見つけ、前向きな未来を描く手助けとなり得るように質問していくことも大切です。

 

訪問看護におけるナラティブ・アプローチのメリット

 

  1. 利用者さんへの理解が深まる
    ナラティブ・アプローチを用いることで、利用者さんの価値観や人生観を知ることができます。
    これにより、その人にとって本当に必要なケアを考えやすくなります。
  2.  信頼関係が築かれる
    訪問看護では、利用者さんと看護師の信頼関係が重要です。
    ナラティブを通じて心を開いてもらうことで、より安心してケアを受けてもらうことができます。
  3.  問題の把握と解決の糸口が見える
    利用者さん自身が言葉にすることで、悩みの本質が明確になります。
    また、ナラティブを共有することで、本人が自ら解決策を見つける手助けにもなります。
  4. 利用者さんの自己肯定感が向上する
    自分の物語を受け止めてもらうことで、利用者さんは「自分の人生を大切にしてもらえている」と感じることができます。
    これは、自己肯定感の向上にもつながります。

 

ナラティブ・アプローチのデメリット

ナラティブ・アプローチには多くのメリットがありますが、いくつかの課題もあります。

 

  1. 客観性の確保が難しい
    利用者さんの語りを尊重する一方で、すべてを事実として受け取るのではなく、冷静に分析する視点も必要です。
  2. 時間がかかる
    利用者さんの話をじっくり聞く必要があるため、短時間での対応が求められる現場では実践が難しい場合もあります。
  3. 価値観の違いに注意が必要
    看護師自身の価値観を押しつけず、利用者さんの思いを尊重する姿勢が大切です。

 

具体的な事例

 

事例①
在宅療養中の高齢者へのナラティブ・アプローチ
80代の女性Aさんは、夫を亡くして以来、一人暮らしを続けています。

訪問看護を利用していますが、食事の量が減り、元気がない様子でした。

訪問看護師がAさんの話を丁寧に聞くと、「夫が亡くなってから食事が楽しくなくなった」と語ってくれました。

さらに問題を客観的に捉えるためにも、Aさんが「夫が私の手料理をおいしそうに食べるんですよ。」と楽しんでいた食事の話を引き出し、利用者さん自身の食事の量が減っているのは、単に体調面だけではないと思いました。

そこで「ご主人が好きだった料理を少しずつ作ってみませんか?」「私にもそのレシピ教えて下さい。」と提案。

すると、Aさんは「試してみようかな」と前向きな気持ちになり、少しずつ料理を作ったり、食事の時間を楽しめるようになりました。

 

このように、ナラティブ・アプローチによって利用者さんの気持ちを引き出し、前向きな変化を促すことができます。

 

まとめ

 

ナラティブ・アプローチは、訪問看護において利用者の物語を大切にしながらケアを行う方法です。

このアプローチを活用することで、以下のような効果が期待できます。

 

  • 利用者さんの思いを深く理解できる
  • 信頼関係を築きやすい
  • 利用者さん自身が問題を整理し、前向きになれる
  • より個別性の高いケアが可能になる

 

ナラティブ・アプローチを実践することで、訪問看護師としてのコミュニケーション力を向上させ、より質の高いケアを提供できるでしょう。

訪問看護の現場で利用者さんの語りに耳を傾け、その人らしい生き方を支えるケアを目指していきましょう。

訪問看護をおこなう中で誰もが不安や疑問に思ったりすることを解決できるような記事の作成を心がけています。

この記事がみなさんの日々の業務に役立ってもらえると幸いです。

 

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