前講義にて、認知症の人の意思決定について、ガイドラインを用いて概念的なお話をしました。
今回は概念的な考え方をベースに、私が意思決定支援に介入した事例を解説します。
この記事を読めば、具体的な認知症の方の意思決定の介入方法が分かります。
ぜひ最後までご覧ください。

目次
意思決定支援の3つのポイント
まずは前提条件の「意思決定支援のポイント」をおさらいしましょう。
意思決定支援のポイントは、「意思の形成」「意思の表明」「意思の実現」です。
このサイクルを何度も回して意思決定を支えていくのが意思決定支援のポイントです。
事例紹介
下記は実際に私が勤務先の病院で介入した事例です。
患者の詳細は下記の通りです。
| 基本情報 |
|
| 入院までの経緯 | 2年前に妹が死去。それ以来活気がなくなる。食事量も徐々に低下して体動困難に。民生委員に促されて受診後、高度貧血にて入院となる。 |
| 介入した時の状態 | 貧血は改善しており、身の回りのことはすべてできる状態。話を聞くと取り繕いがあり診断はないがアルツハイマー型の認知症を疑っていた。「もうどこも悪くない」「家に帰らせて」が訴えだった。 |
本人と話したとき「本人の意思」と、「主治医の治療方針」に乖離があるのが分かりました。
本人の意思は下記です。
- 自宅にある妹の仏壇が気になっている
- 仏様の世話をするのが自分の役割
- 入院でそれができないのが辛い
一方で、主治医の治療方針は「転院」であり、本人の意思が考慮されていないと感じ「意思決定支援」の必要性を感じました。
経験上、家族の意思は尊重されるのですが、本人の思いは流されてしまうことが多々あります。

意思決定支援で重要なのは、「本人の思いはどうなっているのか?」と、意思決定支援について感度を上げて支援に必要性を考えることです。
意思決定支援の実践
下記のポイントに沿って支援に入りました。
- 意思形成支援
- 意思表明支援
- 意思実現支援
具体的にそれぞれ見ていきましょう。
意思形成支援
意思形成支援では「問題の整理」「情報提供」が重要です。
本人は入院した経緯を理解していなかったので、入院の経緯と、今後の治療の方針を説明しました。
また、話を聞く中で、妹の仏壇が気になっているのが分かったので、それをふまえて「今の問題」と「今後の問題」を整理して本人へ伝えました。
- 今の問題:妹の仏壇の世話をしたい
- 今後の問題:同じように低栄養に伴う貧血、入院、衰弱のリスクがある

伝えた内容は上記のとおりです。
意思表明支援
意思表明支援は本人の言葉で語ってもらうのが重要です。
語ってもらいながら、意思形成支援と、意思形成支援は同時に行います。
また、「YES」「NO」で答えられる質問ではなく「どうしたいですか/どうしていいきたいですか」と自分の言葉で語れる質問をしましょう。
事例で表明された思いは下記です。
| 本人の思い | 言葉 | |
| 今 | 妹の仏壇の世話をしたい | 「これが私の役目なの」 |
| 今後 | 自宅に帰って元の生活をしたい | 「どうにかなる」 |

本人は「とにかく家に帰ること」を希望していました。
意思実現支援
意思実現は、代理実現ではなく本人の持てる力を最大限に活かして本人に実現してもらうのが重要です。
そのために、ケアマネや看護師はサービスを含めた環境を整えます。
事例の場合の「家族の意向」は下記です。
- 自宅近くの施設に入所してほしい
- 独居で戻るのは心配でやめてほしい
- 転院してから妹宅近くの施設に入所する
一方で本人の「自宅に帰りたい」気持ちを実現するために必要な支援は下記でした。
- MSW、主治医、本人を交えて話す
- 介護保険の申請
- 日中はデイサービスの参加
- 宅食の手配

本人は介護保険未申請でしたので、まずは申請が必要でした。そこからデイサービスなどの介護サービスの導入や、栄養面では宅食の手配などを考えました。
その後
サービスの調整のため、時間稼ぎを兼ねてリハビリ病院へ転院となりました。
本事例では、介護保険が未申請でしたので、申請からサービス調整までが時間がかかります。
転院先には介護認定、自宅の環境調整、家族との意思調整を依頼しました。

私の印象としては施設入所になる印象でした…。
入院時より早期から自宅退院を考えて動いていれば結果は変わっていたかもしれません。
転院や今後のケアを考えるときサポートする家族の意向が反映されがちです。

サポートする側の医療者は本人の意思と家族の意思の調整も意思決定支援で重要だと学びました。
意思決定支援が実現できない原因とは?
本記事は、事例をもとに意思決定支援について解説しました。
本事例では「思い出のある自宅で最後まで過ごした」「そこで孤独死してもいい」という本人の思いと、「ひとりで死ぬには避けたい」「お世話する人がいる方が快適」という家族の思いが対立していました。
家族や周囲の人は「認知機能が低下しているから意思決定ができない」と思い込んでいます。
支援者は本人と家族の間に立ち、認知症の人の代弁者として意思決定を支えるのが重要です。




















記事の最後に動画もありますのでそちらも参考にしてください。