訪問看護ステーションの開設を検討している方、あるいはすでに運営している方の中には、「廃業率はどのくらいなのか」「自分の事業所は大丈夫なのか」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
訪問看護は需要の拡大が続く分野である一方、事業所数の増加とともに毎年一定数が廃止に至っているのも事実です。この記事では、最新の統計データをもとに廃業の実態を整理し、廃業に至る主な理由と、その予防策を具体的に解説します。
- 訪問看護ステーションの廃業に関する最新の統計データ
- 廃業に至る主な理由3つ
- 廃業前に見られやすい予兆
- 廃業を防ぐための具体的な予防策
目次
訪問看護ステーションの廃業率の実態|最新データで確認
一般社団法人全国訪問看護事業協会の調査によると、指定訪問看護ステーションの稼働数は令和7年4月1日現在で18,754か所となっており、前年から1,425か所増加しています。一方で、令和6年度中には886件が廃止となったことも同じ調査で報告されています。
令和6年4月1日時点の稼働数17,329か所を分母とした場合、廃止数886件は単純計算で約5.1%に相当します。これはあくまで独自の単純計算であり、調査自体が「廃業率」という指標を直接公表しているわけではない点にご留意ください。また、廃止の中には経営難によるものだけでなく、経営者の高齢化に伴う引退や、事業譲渡に伴う指定の切り替えなど、さまざまな事情が含まれている可能性がある点にも注意が必要です。数字の裏にある背景を一括りにせず、幅を持って捉える姿勢が大切です。
参考として、中小企業庁の「2025年版中小企業白書」では、全業種の2023年度の廃業率(厚生労働省「雇用保険事業年報」ベース)は3.9%と示されています。算出方法や母集団の定義が異なるため単純な比較はできませんが、訪問看護ステーションの廃止の動きは、全業種平均と比べて低い水準とは言い切れないことがうかがえます。

事業所数全体は増え続けていますが、その裏で一定数の廃止も起きているというのが実態です。開設して終わりではなく、継続していくための備えが欠かせません。

「廃止」と「休止」の違いを理解しておく
統計データを見る際には、「廃止」と「休止」の違いを押さえておくことも重要です。全国訪問看護事業協会の調査では、令和6年度中の全国の休止数は355件(新規休止分)と報告されており、廃止(886件)とは区別して集計されています。
休止は、人員基準を一時的に満たせなくなった場合などに、事業所を廃止せずサービス提供を一時的に停止する対応です。経営状況が厳しくなった段階で即座に廃止を選ぶ前に、休止という選択肢があることも知っておくと、立て直しの猶予を作れる場合があります。
都道府県別に見る廃止数の傾向
同調査を都道府県別に見ると、廃止数の多い地域には次のような傾向があります。
| 都道府県 | 令和6年度中の廃止数 | 令和7年4月時点の稼働数 |
|---|---|---|
| 大阪府 | 134件 | 2,222か所 |
| 東京都 | 92件 | 1,768か所 |
| 愛知県 | 79件 | 1,262か所 |
| 神奈川県 | 37件 | 1,161か所 |
廃止件数が多い地域は、そもそもの事業所数自体も多い都市部が中心です。件数の絶対値だけを見て「この地域は危険」と判断するのではなく、稼働数に対する割合や、地域内の競争環境と合わせて捉えることが大切です。逆に事業所数の少ない地域では、1件の廃止が地域の医療・介護提供体制に与える影響が相対的に大きくなる点も見落とせません。
訪問看護ステーションの廃業理由
廃業に至る理由は事業所ごとに異なりますが、多くのケースに共通する要因は大きく3つに整理できます。
①看護師の人材不足
訪問看護ステーションは、常勤換算2.5人以上の看護職員という人員基準を満たし続ける必要があります。看護師が急に退職してしまい、後任がすぐに見つからないまま基準を割ってしまうと、事業の継続そのものが困難になるリスクがあります。
②利用者さんの獲得ができない
開設したものの、ケアマネジャーや医療機関との関係構築が進まず、依頼が思うように増えないケースも廃業理由の代表格です。人件費や家賃などの固定費が先行する一方で収益が伸びず、資金が先に尽きてしまいます。
③経営者の知識・経験不足
看護師としての臨床経験は豊富でも、事業所の経営・労務管理・資金繰りといった経営面の知識が不足していると、想定外の支出やスタッフの離職に対応しきれず、経営が行き詰まってしまうことがあります。
3つの理由は互いに独立しているわけではなく、多くの場合は連鎖的に起こります。例えば人材不足でサービスの質が落ち、それが利用者離れを招き、資金繰りが悪化する、といった悪循環に陥りやすい点に注意が必要です。どこか一つの要因に手を打てば済むと考えず、3つを総合的に見直す視点を持つことが重要です。

廃業前に見られやすい予兆
廃業は突然起こるものではなく、多くの場合、事前にいくつかのサインが表れます。自事業所に当てはまるものがないか、確認してみましょう。
| 予兆 | 背景にある要因 |
|---|---|
| スタッフの離職が続く | 労働環境・人間関係・給与水準への不満の蓄積 |
| 新規依頼の件数が減少傾向にある | ケアマネ・医療機関との関係が希薄化している |
| 資金繰りの見通しが立てにくくなる | 固定費の増加と収益の伸び悩みのバランス崩れ |
| 管理者が一人で抱え込む業務が増える | 経営体制・役割分担の未整備 |
訪問看護ステーションが廃業にならないための予防策
廃業に至る前に手を打てることは数多くあります。代表的な予防策を3つ紹介します。
- 資金力を蓄える開設時にはできるだけ余裕を持った運転資金を確保し、利用者さんが安定するまでの期間を乗り切れる体制を整えておきます。
- 人材の確保・定着に取り組む採用時のミスマッチを防ぐとともに、働きやすい環境づくりや定期的な面談を通じて、スタッフの定着率を高める工夫を続けます。
- 人脈作り・紹介ルートの複線化特定のケアマネ事業所や医療機関に依存せず、複数の紹介ルートを持っておくことで、一つの関係が途切れても事業への影響を最小限に抑えられます。
これら3つの予防策は、いずれも一朝一夕に効果が出るものではありません。だからこそ、経営が順調なうちから少しずつ積み上げていく姿勢が、結果的に廃業のリスクを大きく引き下げることにつながります。

「まだ大丈夫」と思っているうちから、資金・人材・紹介ルートの3つを分散して備えておくことが、結果的に長く事業を続けるコツだと感じています。
経営が厳しくなったときに検討したい選択肢
予防策を講じてもなお経営状況が改善しない場合、廃業だけが唯一の選択肢ではありません。早い段階で以下のような選択肢を検討することで、利用者さんへのケアを途切れさせずに済む場合があります。
- 業務フローやコスト構造を見直し、収支の改善を図る
- 近隣の医療・介護法人との連携強化や業務提携を模索する
- 事業譲渡やM&Aによって、他の事業者に事業を引き継いでもらう
- 計画的に休止し、体制を立て直したうえで再開を目指す
特に事業譲渡・M&Aは、経営者自身の負担を減らしながら、利用者さんへのケアとスタッフの雇用を継続できる可能性がある選択肢として近年注目されています。ただし検討にあたっては専門的な知識が必要になるため、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
まとめ|統計データを踏まえ、早めの備えを
訪問看護ステーションの数は全国的に増加を続けている一方で、一定数が毎年廃止に至っているのも事実です。廃業の理由の多くは、人材・利用者獲得・経営知識という3つの要因が連鎖して起こります。統計データを正しく把握したうえで、資金・人材・紹介ルートの3つに早めに備えることが、安定した事業継続につながります。
- 令和6年度中の訪問看護ステーションの廃止数は886件(一般社団法人全国訪問看護事業協会調査)
- 廃業理由の多くは「人材不足」「利用者獲得の難航」「経営知識不足」の連鎖から生じる
- 離職の増加・依頼数の減少・資金繰りの不安定化は廃業前に見られやすい予兆
- 資金力・人材確保・紹介ルートの複線化の3つを早めに備えることが予防策になる
「うちは大丈夫」と思わず、定期的に自事業所の状態を振り返る習慣を持っておきましょう。もし経営状況が厳しくなってきたと感じたら、廃業という結論を急ぐ前に、業務改善や事業譲渡といった選択肢も含めて、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

よくある質問
訪問看護ステーションの廃業率は、他業種と比べて高いのですか?
算出方法や母集団の定義が異なるため単純比較はできませんが、令和6年度の廃止数886件を前年度の稼働数で単純計算すると約5.1%となり、全業種平均の廃業率3.9%(2023年度、中小企業庁公表)と比べて低い水準とは言い切れません。
人員基準を満たせなくなった場合、すぐに廃業になりますか?
一時的に基準を下回っただけで直ちに廃業になるわけではありませんが、常勤換算2.5人以上という人員基準を満たせない状態が続くと、指定の効力に影響する可能性があります。早めの採用活動や、派遣・応援体制の確保など、基準割れを防ぐ対応が重要です。
資金繰りが厳しくなってきた場合、どこに相談すればよいですか?
日本政策金融公庫や取引金融機関への相談のほか、税理士や中小企業診断士など経営の専門家に早めに相談することをおすすめします。資金繰りの悪化は進行してから対応するより、兆候が見えた早い段階で相談するほうが選択肢を残しやすくなります。
廃業を避けるために、まず何から取り組めばよいですか?
まずは自事業所の状態を、資金・人材・紹介ルートの3つの観点で棚卸ししてみることをおすすめします。どこに弱点があるかを把握したうえで、優先順位をつけて対策に取り組むことが効果的です。
廃業ではなく事業譲渡やM&Aを選ぶメリットは何ですか?
廃業は原則としてサービス提供が終了し、スタッフの雇用も継続できませんが、事業譲渡やM&Aによって他の事業者に事業を引き継ぐことができれば、利用者さんへのケアとスタッフの雇用を継続できる可能性があります。経営者自身にとっても、負債の整理や引退後の生活設計を計画的に進めやすくなる点がメリットとして挙げられます。














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