訪問看護ステーションの管理者と所長の違いとは?法的根拠から解説

訪問看護ステーションを立ち上げる際、名刺や組織図に「管理者」と書くべきか「所長」と書くべきか迷う方は少なくありません。求人票や事業所のパンフレットで「所長」という肩書きを見かけることも多く、両者がどう違うのか、はっきり説明できないまま運用しているケースもあります。

結論から言うと、「管理者」は指定基準で必ず置かなければならない法律上の職務であるのに対し、「所長」は事業所が自由に設定できる組織上の役職名です。本記事では、この違いを指定基準の条文にもとづいて整理し、令和6年度改定で緩和された管理者の兼務要件など、開業・運営時に押さえておきたいポイントもあわせて解説します。

この記事でわかること
  • 訪問看護ステーションの「管理者」と「所長」の法的な違い
  • 管理者を置かなければならない根拠となる指定基準の条文
  • 管理者になれる人・なれない人の条件
  • 「所長」という役職が生まれる2つのパターン
  • 令和6年度改定で緩和された、管理者の兼務要件のポイント

訪問看護ステーションの「管理者」と「所長」の違い(結論)

まず結論を整理します。

項目管理者所長
法的な位置づけ指定基準で設置が義務づけられている法律上の定めはない(組織上の役職)
資格要件原則、保健師・助産師・看護師資格の制限はない
必置かどうか必ず置かなければならない置いても置かなくてもよい
実際の使われ方指定申請書に記載する正式な職名管理者の呼び名、または管理者とは別の事業所の顔

つまり、「所長」という肩書きは、法律上は存在せず、事業所が独自に名乗っている役職ということになります。多くの事業所では管理者がそのまま所長を兼ねますが、後述するように、あえて分けているケースもあります。

管理者はなぜ必ず必要なのか|指定基準における法的根拠

管理者の設置義務は、厚生労働省令「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」(平成12年厚生省令第80号)第三条に定められています。条文を見てみましょう。

POINT|指定基準 第三条(要旨)

指定訪問看護事業者は、指定訪問看護ステーションごとに専らその職務に従事する常勤の管理者を置かなければならない。ただし、管理上支障がない場合は、当該指定訪問看護ステーションの他の職務に従事し、又は他の事業所、施設等の職務に従事することができる。

管理者は、保健師、助産師又は看護師でなければならない(やむを得ない理由がある場合を除く)。また、適切な指定訪問看護を行うために必要な知識及び技能を有する者でなければならない。

ここから分かる通り、管理者は「常勤・専従」が原則であり、訪問看護ステーションを開設するうえで絶対に欠かせない職務です。管理者が不在のまま運営することは、指定基準違反にあたります。

管理者になれる人・なれない人

指定基準では、管理者は原則として保健師・助産師・看護師でなければならないとされています。そのため、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリハビリ職は、原則として管理者になることはできません(やむを得ない理由がある場合の例外は認められていますが、限定的な取り扱いです)。

この資格要件が、次に説明する「所長」という役職が生まれる大きな理由のひとつになっています。

看護師 上妻
看護師 上妻

リハビリ特化型の訪問看護ステーションでは、実質的に事業を引っ張っているのがリハビリ職の方、というケースも珍しくありません。そうした事業所で「所長」という役職が使われる理由が、まさにここにあります。

「所長」という役職が生まれる2つのパターン

「所長」という肩書きが使われる背景には、大きく2つのパターンがあります。

パターン1:管理者のことを「所長」と呼んでいるだけ

もっともシンプルなパターンです。指定基準上の「管理者」を、事業所内・対外的には「所長」という呼び名で呼んでいるケースです。この場合、管理者=所長であり、役割上の違いはありません。

パターン2:管理者とは別に「所長」を置くケース

もう一つは、看護師である管理者とは別に、リハビリ職などを「所長」として据えるケースです。前述の通り、理学療法士等は指定基準上の管理者にはなれません。しかし、実際に事業所を主導し、対外的な顔となっているのがリハビリ職である事業所は少なくありません。

このような場合、指定基準を満たすための「管理者」を看護師が務め、事業運営の実質的なリーダーである「所長」を別に置くという組織構造が取られます。指定基準上は管理者が事業所の責任者ですが、組織上の役職としては所長が上位に位置づけられることもあります。

【令和6年度改定】管理者の兼務要件が緩和された今、押さえておきたいポイント

指定基準第三条にある通り、管理者は原則として「専らその職務に従事する常勤」でなければなりません。以前は、管理上支障がない場合の兼務先が「同一敷地内」の事業所・施設等に限定されていましたが、令和6年度の基準改正により、この地理的な限定は見直されています。現行の条文では、管理上支障がない場合に「他の事業所、施設等の職務に従事することができる」とされており、以前のような同一敷地内という制限は設けられていません。

注意

兼務が認められるのはあくまで「管理上支障がない場合」に限られます。複数事業所の管理者を兼務させる場合は、緊急時に速やかに対応できる体制が確保されているかなど、実態として管理業務に支障が出ていないかを慎重に確認する必要があります。具体的な運用の可否は、指定権者(都道府県・市町村・厚生局)に事前に確認することをおすすめします。

この改正により、複数の訪問看護ステーションやサテライトを展開する法人にとっては、管理者の配置を柔軟に検討できる余地が広がりました。一方で、「所長」を別に置いて実質的な現場マネジメントを担わせる、という運用の重要性は変わらず高いといえます。

所長・管理者以外の役職名の付け方

訪問看護ステーションの組織上の役職名は、指定基準に定められたものではないため、事業所が自由に設定できます。実際によく使われる役職名には、次のようなものがあります。

  • チームリーダー
  • ステーション責任者(店舗責任者)
  • エリアリーダー・エリアマネージャー
  • 本部長

複数事業所を展開する法人では、こうした役職を組み合わせて、管理者(指定基準上の必置職)と、組織上のマネジメントラインを切り分けて運用しているケースも多く見られます。

管理者と所長、どちらの体制にすべきか?

看護師 上妻
看護師 上妻

「管理者は偉い人」というイメージを持たれがちですが、あくまで指定基準を満たすための必置職務です。質の高いサービス提供のためには、管理者以外の人が実質的な責任者・所長を務める体制のほうがうまくいく、というケースも十分にあります。

大切なのは、肩書きをどう付けるかよりも、誰が指定基準上の責任を負い、誰が現場のマネジメントを担うのかを、事業所内で明確にしておくことです。管理者と所長を分ける場合は、それぞれの役割・権限の範囲を書面で整理しておくと、後々のトラブルを防げます。

訪問看護ステーションに管理者は必ず必要ですか?

必ず必要です。指定基準第三条により、指定訪問看護ステーションごとに専らその職務に従事する常勤の管理者を置かなければならないとされています。管理者が不在のまま運営することは指定基準違反にあたります。

理学療法士や作業療法士は管理者になれますか?

原則としてなれません。指定基準上、管理者は保健師・助産師・看護師でなければならないとされています。やむを得ない理由がある場合の例外規定はありますが、限定的な取り扱いです。そのため、リハビリ職が事業所を主導する場合は「所長」など別の役職名を用いるケースが多く見られます。

管理者は他の事業所と兼務できますか?

管理上支障がない場合は、他の事業所や施設等の職務に従事することができます。以前は兼務先が同一敷地内に限定されていましたが、令和6年度の基準改正でこの地理的な限定は見直されています。ただし、緊急時に速やかに対応できる体制が確保されているかなど、実態として管理業務に支障がないかを確認する必要があるため、具体的な運用は指定権者に事前に確認することをおすすめします。

「所長」という肩書きに法的な意味はありますか?

法律上の定めはありません。「所長」は事業所が独自に設定できる組織上の役職名で、指定基準上は存在しない肩書きです。管理者をそう呼んでいるだけの場合と、管理者とは別に所長を置いている場合があります。

管理者と所長、どちらの役職名を使うべきですか?

どちらが正しいというものではなく、事業所の組織体制に合わせて選ぶことになります。指定基準上の責任者である「管理者」と、現場マネジメントを担う実質的な「所長」を分けたほうがうまく機能する事業所もあれば、管理者がそのまま所長を兼ねたほうがシンプルな事業所もあります。

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管理者という職務について、日々どのような業務を担っているのかも知っておくと、体制づくりの判断がしやすくなります。

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まとめ|「管理者」は法律上の必置職、「所長」は組織上の役職

訪問看護ステーションの「管理者」と「所長」は、混同されがちですが法的な位置づけがまったく異なります。この違いを理解しておくことが、適切な組織体制づくりの第一歩です。

この記事のまとめ
  • 「管理者」は指定基準で設置が義務づけられた法律上の職務で、原則保健師・助産師・看護師でなければならない
  • 「所長」は法律上の定めがなく、事業所が自由に設定できる組織上の役職名
  • リハビリ職が事業を主導する事業所では、看護師の管理者とは別に所長を置くケースがある
  • 令和6年度の基準改正で、管理者の兼務先に関する地理的な制限は見直されている

肩書きの付け方に正解はありませんが、指定基準上の責任者は誰か、現場のマネジメントは誰が担うのかを明確にしておくことが、健全な事業所運営につながります。

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ABOUT US
上妻 裕弥看護師/MBA取得
株式会社ビジケア代表取締役/看護師・MBA取得。これまで200社以上の訪問看護事業所へ経営コンサルティング・BPOサービスを実施。経営者・管理者のサロン等も含めると500社を超える。単月黒字化から複数拠点展開、事業承継まで支援し、看護師の視点で「続く経営」をつくる。別法人にて自身でも全国に訪問看護ステーション展開している。