1人の利用者に複数の訪問看護ステーションが関わるケースは、医療依存度の高い利用者やリハビリを重視する利用者で少なくありません。しかし、加算の中には「1事業所しか算定できないもの」と「関わる事業所それぞれが算定できるもの」が混在しており、この違いを把握していないと過剰請求や算定漏れにつながります。
この記事では、介護保険・医療保険それぞれの加算について、複数事業所が関わる場合の算定ルールを整理し、実務での注意点まであわせて解説します。
- 複数の訪問看護ステーションが1人の利用者に関わる典型的なケース
- 介護保険で1事業所しか算定できない加算・複数事業所で算定できる加算
- 医療保険で1事業所しか算定できない加算・複数事業所で算定できる加算
- 他事業所と連携する際に確認しておくべき実務ポイント
目次
複数の訪問看護ステーションが関わるのはどんなケースか
1人の利用者に対して複数の訪問看護ステーションが関わる代表的なケースには、次のようなものがあります。
- 看護メインのステーションと、リハビリ専門職が多いステーションを併用する場合
- 医療依存度が高く、訪問回数を分散させて対応する場合
- 精神科訪問看護に特化した事業所と、身体的なケアを行う事業所を併用する場合
このような場合、利用者・ケアマネジャー・複数の訪問看護ステーションの間で、誰がどの加算を算定するのかを事前にすり合わせておく必要があります。特に「1ヶ所でしか算定できない加算」は、複数の事業所が同時に請求してしまうと過剰請求になるため注意が必要です。

複数事業所が関わる利用者さんは、月初のカンファレンスやケアマネジャーとの連絡で「今月はどちらが緊急時加算を算定するか」を必ず確認しています。後から重複が発覚すると調整が大変なので、事前確認が一番の予防策です。

【介護保険】1ヶ所の訪問看護ステーションしか算定できない加算
介護保険の訪問看護では、次の加算は利用者1人につき、いずれか1つの事業所しか算定できません。
| 加算 | 概要 |
|---|---|
| 緊急時訪問看護加算 | 24時間対応体制を届け出た1事業所のみが算定可能。複数事業所が関わる場合は、あらかじめどちらが体制を届け出るかを取り決めておく必要がある |
| 特別管理加算(Ⅰ)(Ⅱ) | 1人の利用者につき1事業所のみ算定可能。複数事業所が関わる場合は、主に医療管理を担う事業所が算定し、事業所間で合議のうえ按分することもある |
| ターミナルケア加算 | 在宅で死亡した利用者について、直近の頻回な訪問看護を担った1事業所のみが算定可能 |
| 退院時共同指導加算 | 退院時に共同指導を実施した事業所が算定するが、同一日に複数事業所が指導を行っても、1人の利用者につき1回(複数回訪問看護加算の特例除く)が原則 |
特別管理加算は、状態によって主治医が指示する医療処置の管理をどの事業所が中心的に担っているかで、算定する事業所を決めるのが一般的です。事業所間で合議のうえ、按分する場合の分配方法についても事前に取り決めておくとトラブルを防げます。
【介護保険】複数の訪問看護ステーションが算定できる加算
一方で、次の加算は関わる事業所それぞれが、自事業所の訪問実績に応じて算定できます。
- 初回加算(それぞれの事業所が初回訪問を行った月に算定)
- 退院時共同指導加算(複数事業所がそれぞれ共同指導を実施した場合)
- 看護体制強化加算
- サービス提供体制強化加算
- 特別地域加算・中山間地域等の小規模事業所加算・中山間地域等提供加算
- 夜間・早朝訪問看護加算/深夜訪問看護加算
- 複数名訪問加算
- 長時間訪問看護加算
- 看護・介護職員連携強化加算
これらは事業所ごとの体制・実績に基づく加算のため、複数事業所が同時に算定していても重複請求にはあたりません。

【医療保険】1ヶ所の訪問看護ステーションしか算定できない加算
医療保険の訪問看護でも、同様に1事業所のみが算定できる加算があります。
| 加算 | 概要 |
|---|---|
| 訪問看護管理療養費 | 月の初日の訪問を行った1事業所のみが算定(複数事業所訪問の場合は月の初日を担当した事業所が算定するのが原則) |
| 24時間対応体制加算 | 24時間対応体制を届け出た1事業所のみが算定可能 |
| 特別管理加算 | 介護保険と同様、1人の利用者につき1事業所のみ算定可能 |
| 在宅患者連携指導加算 | 関係機関と文書で情報共有を行った事業所のうち、算定要件を満たした1事業所が算定 |
| 在宅患者緊急時等カンファレンス加算 | カンファレンスを行った事業所のうち、算定要件を満たした1事業所が算定 |
| ターミナルケア療養費 | 在宅での死亡前に頻回な訪問看護を担った1事業所のみが算定可能 |
| 退院時共同指導加算 | 共同指導を実施した事業所が算定するが、算定回数には上限がある |
【医療保険】複数の訪問看護ステーションが算定できる加算
次の加算は、医療保険でも関わる事業所それぞれが算定できます。
- 訪問看護基本療養費(各事業所が実際に訪問した回数分)
- 夜間・早朝訪問看護加算/深夜訪問看護加算
- 複数名訪問看護加算
- 長時間訪問看護加算
- 乳幼児加算
- 難病等複数回訪問加算
- 特別地域訪問看護加算
- 看護・介護職員連携強化加算
「管理」に関わる加算(管理療養費・24時間対応体制加算など)は1事業所のみ、「実際の訪問実績」に応じた加算は関わる事業所それぞれが算定できる、という整理で理解すると覚えやすくなります。
複数事業所が関わる場合に確認すべき実務ポイント
制度上のルールを理解していても、実務では次のような確認を怠るとトラブルにつながります。
- 担当区分の事前確認ケアマネジャーを交え、緊急時対応・特別管理加算など1事業所のみ算定できる加算をどちらが担当するか、サービス担当者会議やケアプランで明確にする。
- 月初訪問の調整医療保険の訪問看護管理療養費は月初の訪問を行った事業所が算定するため、月をまたぐタイミングでの訪問順を事業所間で調整する。
- 情報共有の記録化他事業所とのカンファレンス・情報共有は、日時・内容を記録に残し、算定要件(文書での情報提供等)を満たしているか確認する。
- 請求前の突合レセプト提出前に、他事業所と重複した加算を算定していないか、可能な範囲で確認する。

複数事業所での対応は、利用者さんにとって手厚い体制になる一方、請求面では細やかな連携が欠かせません。困ったときは保険者や地方厚生局に確認する姿勢も大切です。
よくある算定ミスの事例
複数事業所が関わる利用者の請求では、次のようなミスが実際によく起こります。事前に事例を知っておくことで、自事業所での再発防止につなげられます。
| ミスの内容 | 起こりやすい原因 | 防止策 |
|---|---|---|
| 特別管理加算の重複請求 | 他事業所も同じ利用者を担当していることを把握していなかった | 利用契約時にケアマネジャーへ他事業所の関与状況を確認する |
| 訪問看護管理療養費の請求先誤り | 月初訪問がどちらの事業所だったかを事業所間で共有していなかった | 月初の訪問スケジュールを事業所間であらかじめ確認し合う |
| 緊急時訪問看護加算の未算定 | 24時間対応体制の届出をしているのにケアプランに反映されていなかった | 体制届出の状況をケアマネジャーへ都度共有し、ケアプランへの記載を確認する |
特に開業直後や利用者が急増している時期は、他事業所との連携確認が後回しになりがちです。新規利用者を受け入れる際のチェックリストに「他事業所の関与有無」の確認項目をあらかじめ組み込んでおくと、確認漏れを防ぎやすくなります。
ケアプラン・重要事項説明書への記載の考え方
複数の訪問看護ステーションが関わる場合、ケアプランや重要事項説明書にどのように役割分担を記載するかも実務上のポイントです。
- ケアプランの「サービス内容」欄に、各事業所が担当する曜日・時間帯・目的(医療管理/リハビリなど)を明記する
- 緊急時訪問看護加算・特別管理加算を算定する事業所名を、サービス担当者会議の記録に残しておく
- 重要事項説明書には、他事業所と連携する可能性がある旨と、情報共有の範囲について利用者・家族へ説明した記録を残す
これらの記載・記録を整えておくことで、実地指導の際にも複数事業所間の役割分担が適正であることを説明しやすくなります。
よくある質問
特別管理加算を複数事業所で分配することはできますか?
特別管理加算そのものは1人の利用者につき1事業所のみの算定となりますが、実務上は関わる事業所間の合議によって、算定した事業所から他事業所へ分配する取り扱いが行われる場合があります。詳細な取り扱いは保険者によって異なることがあるため、判断に迷う場合は事前に確認することをおすすめします。
緊急時訪問看護加算はどちらの事業所が算定すべきですか?
24時間対応体制を届け出ている事業所が算定します。複数の事業所が関わる場合は、どちらが24時間対応体制を担うかをあらかじめ取り決め、ケアプランにも明記しておくとトラブルを防げます。
医療保険と介護保険で加算のルールは同じですか?
基本的な考え方(管理系の加算は1事業所、訪問実績に応じた加算は複数事業所で算定可)は共通していますが、具体的な加算の名称や算定要件は異なります。それぞれの保険制度の告示・通知を個別に確認する必要があります。
複数事業所の連携がうまくいかない場合はどうすればいいですか?
まずはケアマネジャーを交えたサービス担当者会議で役割分担を明確にすることが基本です。それでも解消しない場合は、保険者や地域包括支援センターに相談する方法もあります。

まとめ|「管理系は1ヶ所」「実績系は複数事業所」で整理する
複数の訪問看護ステーションが1人の利用者に関わる場合、加算の算定ルールを正しく理解していないと過剰請求や算定漏れのリスクがあります。
- 緊急時訪問看護加算・特別管理加算・ターミナルケア加算などは1事業所のみ算定できる
- 初回加算・サービス提供体制強化加算・複数名訪問加算などは関わる事業所それぞれが算定できる
- 医療保険でも「管理療養費・24時間対応体制加算は1事業所」「訪問実績系は複数事業所」という整理が基本
- ケアマネジャーを交えた事前の役割分担と、請求前の重複確認が実務上のポイント
複数事業所での連携は利用者にとって手厚い支援体制になる一方、請求の正確性を保つための事前調整が欠かせません。
加算の算定要件は診療報酬・介護報酬改定のたびに見直されるため、実際の算定にあたっては最新の告示・通知および所轄の保険者・地方厚生局の見解をご確認ください。












-485x254.png)

-485x254.png)
-485x254.png)







