訪問看護の報酬改定で経営が厳しくなる理由とM&Aという解決策

「今回の改定も、なんとか乗り切れた」——診療報酬・介護報酬の改定のたびに、そう胸をなで下ろしている訪問看護ステーション経営者の方は多いのではないでしょうか。ですが、令和8年度は診療報酬・介護報酬の両方で大きな制度変更が重なった年でした。ベースアップ評価料の引き上げや、訪問看護が初めて対象に加わった処遇改善加算など、収入を底上げする追い風がある一方で、記録や運営基準の厳格化という向かい風も同時に強まっています。

「制度についていくだけで精一杯で、経営を良くする方向に頭が回らない」——そう感じているとしたら、それはあなたの努力不足ではなく、一つの事業所が単独で対応するには、今の制度対応の負荷が重くなりすぎているという構造的な問題かもしれません。この記事では、令和8年度の報酬改定で訪問看護の経営環境が具体的にどう変わったのかを公的データとともに整理したうえで、単独経営の限界を超える現実的な選択肢としてのM&A(大手・中堅グループ入り)について解説します。

この記事でわかること
  • 令和8年度診療報酬改定(令和8年6月施行)で訪問看護に何が起きたか(ベースアップ評価料・管理療養費・記録要件の厳格化)
  • 令和8年度介護報酬改定(期中改定)で訪問看護が初めて処遇改善加算の対象になった内容と、加算取得に必要な事務対応
  • 事業所数の急増と収支差率の変動という、訪問看護業界が置かれている構造的な経営環境
  • 制度対応の負荷が増す中で、M&A(大手・中堅グループ入り)が現実的な解決策になり得る理由と費用の実際

訪問看護ステーションはなぜ急増したのか|競争激化と不安定な収支差率という現実

制度の話に入る前に、まず押さえておきたいのが訪問看護業界全体の構造です。厚生労働省が社会保障審議会介護給付費分科会(第259回、令和8年6月29日)に提出した資料によると、医療保険の訪問看護療養費を算定する訪問看護ステーション数は、平成14年度の4,550か所から令和7年度には18,378か所へと、約4倍に増加しています。全国訪問看護事業協会の指定数ベースで見ても、令和2年度13,459か所から令和6年度19,314か所へと右肩上がりです。

一方で、同じ資料では廃止・休止の届出数も増加傾向にあることが示されています。年度内の廃止届受理数は令和2年度541件から令和6年度886件へ、休止届受理数も240件から355件へと増えており、事業所が増えると同時に、経営を続けられなくなる事業所も増えているのが実態です。廃止理由(全国訪問看護事業協会の調査、有効回答437件)のトップ2は「従業員確保が困難」22.7%、「管理職が退職した」17.6%で、これに「利用者が少なく経営維持が困難」14.9%が続きます。人材確保の壁と、経営者・管理者自身の交代という後継者問題が、廃業の主要因になっていることが公的データからも読み取れます。

収支差率(令和6年度決算・税引前・物価高騰対策関連補助金を含まない)を見ても、訪問看護は10.3%と他の居宅サービスと比べて悪い水準ではありませんが、令和4年度決算5.9%→令和5年度決算11.9%→令和6年度決算10.3%と、わずか2年で大きく変動しています。これは、報酬改定や物価・人件費の動向によって収益構造が敏感に揺さぶられる、不安定な経営環境に置かれていることを意味します。

看護師 上妻
看護師 上妻

事業所の数が増えれば、それだけ利用者や採用の奪い合いも激しくなります。「頑張って開設したのに、数年で競合だらけ」という声を管理者さんからよく聞きますが、これは業界全体で起きている構造的な変化なんですよね。

令和8年度診療報酬改定(令和8年6月施行)で訪問看護に何が起きたか|賃上げと適正化の両輪

令和8年度の診療報酬改定は、全体改定率+3.09%(令和8・9年度の2年度平均、令和8年度+2.41%、令和9年度+3.77%)、令和8年6月施行という内容で決定しました。訪問看護に関わる変更点は、大きく「賃上げ・増収につながる評価の見直し」と「適正化・厳格化」の2方向に分かれます。

収入面の変化:ベースアップ評価料・管理療養費の見直し、包括型訪問看護療養費の新設

訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)は、現行780円から改定後1,050円に引き上げられ、継続的に賃上げを実施している訪問看護ステーションではさらに高い評価(令和8年6月~令和9年5月は1,830円、令和9年6月以降は2,100円・2,880円)が設定されます。訪問看護ベースアップ評価料(Ⅱ)も新たに1〜36の区分が設けられ、令和8年6月~は30円〜540円(継続実施の場合は最大1,040円)、令和9年6月以降は最大1,080円・1,580円まで段階的に拡大される仕組みです。

あわせて、月の初日に算定する訪問看護管理療養費も充実し、機能強化型訪問看護管理療養費1は13,230円から13,760円に、機能強化型2は10,030円から10,460円に引き上げられました。月の2日目以降は、これまでの「訪問看護管理療養費1・2」という区分を統合したうえで、訪問日数と単一建物居住利用者の人数によって評価を細分化する方式に変わっています。高齢者向け住まい等に併設・隣接するステーションが24時間体制で頻回の訪問看護を行う場合を評価する「包括型訪問看護療養費」も新設されました。

適正化面の変化:記録・運営基準の厳格化

一方で見逃せないのが、「適正な訪問看護の推進」という名目での厳格化です。訪問看護の実施が漫然かつ画一的なものにならないよう、看護目標及び訪問看護計画に沿って行うことや、記録書等に実際の訪問開始時刻と終了時刻を記載することが明記されました。あわせて、指定訪問看護の人員及び運営に関する基準の見直しにより、適正な手続きの確保、事故発生時等の安全管理体制の確保、経済上の利益の提供による特定の訪問看護ステーションへの誘導・誘因の禁止などが新たに規定されています。

令和8年度介護報酬改定(期中改定)で訪問看護が初めて処遇改善加算の対象に|加算率1.8%の実際

介護報酬の側でも、訪問看護にとって大きな変化がありました。政府の総合経済対策を踏まえ、本来は令和9年度に予定されていた介護報酬改定を待たずに、令和8年度に「期中改定」(改定率+2.03%)が実施され、これまで介護職員等処遇改善加算の対象外だった訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援等に、新たに処遇改善加算が設けられました。訪問看護の加算率は1.8%(介護予防訪問看護も同様)です。

ただし、この加算は自動的に反映されるものではありません。取得するには、加算Ⅳに準ずる要件(キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ及び職場環境等要件)を満たすか、あるいは「令和8年度特例要件」(ケアプランデータ連携システムへの加入と実績報告など)のいずれかを満たす必要があります。処遇改善計画書の作成・提出、その後の実績報告書の提出といった事務手続きも新たに発生します。せっかく制度上は対象になっても、事務対応が追いつかず加算を取りこぼしてしまう事業所が出てくることは、十分に想定しておく必要があります。

なぜ「経営者一人・一事業所」だけでは制度対応の限界を超えつつあるのか

ここまで見てきた通り、令和8年度の報酬改定は、収入を底上げする仕組み(ベースアップ評価料・処遇改善加算・包括型訪問看護療養費)と、事務・記録面の負荷を増やす仕組み(記録要件の厳格化、運営基準の見直し、加算取得のための計画書・実績報告書作成)が同時に進む「アメとムチ」の構造になっています。加算を確実に取得し、記録・運営体制も基準に沿って整備し続けるには、専任の事務担当者や、変更のたびに制度を読み解く体制が欠かせません。

しかし、看護職員が数名規模の小さな訪問看護ステーションでは、経営者自身が管理者・オンコール担当・採用担当・そして制度対応の事務担当までを兼務しているケースが珍しくありません。日々の訪問・オンコール対応に追われながら、数十ページに及ぶ改定資料を読み込み、新しい様式で計画書や実績報告書を作成する——この負担は、経営者一人が抱え続けるにはあまりに重いものです。

注意

制度対応の遅れは、単なる事務ミスでは済みません。加算の取りこぼしはそのまま収入減に直結しますし、記録・運営基準の不備は運営指導での指摘事項にもつながります。改定のたびに後手に回る状態が続くと、収支差率がさらに不安定になり、資金繰りに余裕がない状態で次の改定を迎えるという悪循環に陥りかねません。経営が行き詰まってから対策を考えるのではなく、事業の継続方法そのものを見直す選択肢を、早めに検討しておくことが重要です。

この「経営者一人が制度対応まで抱え込む構造」そのものを変える方法の一つが、大手・中堅の訪問看護グループの傘下に入るM&A(事業承継)です。訪問看護ステーションにおけるM&Aとは?基本から分かりやすく解説で基本的な流れを解説していますので、M&A自体が初めての方はあわせてご覧ください。

M&A(大手・中堅グループ入り)で何が変わるのか|雇用・地域医療・経営者自身への3つの価値

大手・中堅の訪問看護グループの傘下に入ることで得られる価値は、単なる「事業の成長」ではありません。制度対応に追われて疲弊している経営者にとって重要なのは、次の3つの価値が同時に得られるという点です。

1. 雇用の維持と処遇改善(大義)

グループ内に専門の事務・制度対応チームを持つ大手・中堅グループであれば、ベースアップ評価料や処遇改善加算の区分決定、計画書・実績報告書の作成といった事務負担を、経営者一人に背負わせずに組織で対応できます。加算の取りこぼしを防いで収入を最大化し、その原資を確実に賃金改善に還元する体制を整えやすくなる点は、スタッフの処遇改善に直結します。

2. 地域医療の持続(社会的責任)

制度対応の負荷に耐えきれず、ある日突然サービス提供が止まってしまえば、その地域で訪問看護を頼りにしている利用者・ご家族が一番のしわ寄せを受けます。事務・制度対応の体力がある組織のもとで経営を引き継ぐことは、地域でのケアを継続させる、社会的な責任を果たす選択でもあります。

3. 債務・個人保証からの解放とリスタート(実利)

そして経営者自身にとって最も切実なのは、この実利の面かもしれません。訪問・オンコール対応に加え、改定のたびに制度を読み解き、事務手続きに追われる生活から離れ、事業用の借入や個人保証といった重荷も整理した上で、一人の看護師・現場のプレイヤーとして安心して眠れる生活を取り戻せる可能性があります。制度対応という終わりのない重圧そのものから解放されることは、綺麗事ではなく、疲弊しきった経営者にとっての現実的な救済策です。

項目単独の小規模ステーション大手・中堅グループ傘下
制度対応経営者自身が改定資料を読み込み、事務手続きも兼務専門の事務・制度対応チームが組織的に対応
加算取得要件確認や様式作成の負担が大きく取りこぼしのリスクグループ内のノウハウ・システムを活用し取得漏れを防ぎやすい
賃金改善加算を取得できても原資の管理・配分を単独で設計グループ内で処遇制度が明文化されやすい
経営の安定性収支差率が改定のたびに大きく変動しやすい複数拠点での収益分散によりショックを緩和しやすい

実際にどう進めるのか|スタッフに知られずに検討できる無料相談からの流れ

「M&Aを検討していることがスタッフに知られたら、動揺させてしまうのでは」という不安は、多くの経営者が最初に感じる点です。ビジケアのM&A支援では、まず無償のPre-M&A相談・無料査定の段階から始まり、この時点では相手先への情報開示は行われません。具体的な買い手探しに進む段階になって初めて、提携仲介契約を締結する流れになるため、社内での検討はスタッフに知られずに慎重に進めることができます。

  1. STEP1 要望ヒアリング売却を考えた経緯、希望金額、引退や次のステップといった将来像について、じっくりヒアリングします。
  2. STEP2 書類準備無料査定に必要な直近3年分の決算書(損益計算書・貸借対照表)と税務申告書を準備します。
  3. STEP3 査定書類(電子コピー)を送付後、約2週間ほどで査定結果が返答されます。この結果を受けて、買手企業への情報開示を伴う段階(有償)に進む場合は、仲介委託契約を締結します。
看護師 上妻
看護師 上妻

制度対応に追われて忙しい時期こそ、「このまま単独でやっていけるのか」を客観的に見直すいい機会だと思います。相談したらすぐ売却が決まるわけではないので、まずは無料査定で自分の事業所の現在地を知っておくだけでも、今後の経営判断の材料になりますよ。

費用はどれくらいかかるのか|成功報酬制と「最低手数料の罠」

費用面で気をつけたいのが、業者ごとに手数料体系が大きく異なる点です。M&A仲介会社の中には、最低手数料を1,000万〜2,000万円程度に設定しているところもあり、訪問看護ステーションのように売却額がそれほど大きくない案件では、手数料を支払うと手元にほとんど残らない「手数料負け」が起こり得ます。

ビジケアの場合、無料相談・無料査定は無償で、その後の基本合意締結前後のサポート(ノンネームシート作成、買手への初期アプローチ、デューデリジェンス対応など)にはフィーが発生します。ご成約時には成功報酬として売却価格の5%(レーマン方式)を頂戴しますが、最低手数料は200万円としており、訪問看護ステーションのような小規模事業所でも手数料負けが起きにくい料金体系になっています。

POINT

費用体系を比較する際は、料率だけでなく「最低手数料」の金額を必ず確認してください。売却価格が数千万円規模の案件では、最低手数料の設定次第で手元に残る金額が大きく変わります。

よくある質問

訪問看護のベースアップ評価料は、届出をすれば自動的に高い区分になりますか?

いいえ。区分は「賃金改善算定基礎額」など事業所ごとの実績に応じて決まり、継続的に賃上げを実施しているかどうかによっても評価が異なります。届出時の書類作成や、毎年の実績報告といった事務対応が必要になります。

訪問看護が処遇改善加算の対象になったのはいつからですか?

令和8年度の介護報酬の期中改定により、訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援等が新たに介護職員等処遇改善加算の対象に加わりました。訪問看護の加算率は1.8%で、令和8年6月分からの算定です。ただし取得には一定の要件を満たす必要があります。

小規模な事業所でも、今回のような制度改正に対応できますか?

対応は可能ですが、専任の事務担当者がいない事業所では、経営者自身の負担が大きくなりやすいのが実情です。加算の取得漏れや記録要件の対応漏れを防ぐには、体制づくりが重要になります。単独での対応が難しいと感じる場合は、大手・中堅グループの傘下に入ることで、組織的な事務体制を活用できる可能性があります。

M&Aを検討していることをスタッフに知られずに進められますか?

無償のPre-M&A相談・無料査定の段階では、相手先への情報開示は行われないため、社内に知らせずに検討を進めることができます。実際に買手企業への情報開示に進む段階では仲介委託契約を締結し、進め方についても事前に相談できます。

相談だけでも費用はかかりますか?

いいえ。事前相談と無料査定はいずれも無償でご利用いただけます。費用が発生するのは、具体的な買手探しに進む段階(提携仲介契約の締結後)からです。

M&Aの手数料はどのように決まりますか?

ビジケアでは、ご成約時に成功報酬として売却価格の5%(レーマン方式)をいただいており、最低手数料は200万円です。無料相談・無料査定の段階では費用は発生しません。

あわせて読んでおきたい関連記事

M&Aの基本的な流れやメリット・デメリットを一から知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。

訪問看護ステーションにおけるM&Aとは?基本から分かりやすく解説

まとめ|報酬改定への対応は、一人で抱え込まなくていい

令和8年度は、診療報酬・介護報酬の両方で訪問看護に大きな変化があった年でした。ベースアップ評価料の引き上げや処遇改善加算の対象拡大という追い風がある一方で、記録・運営基準の厳格化という向かい風も同時に強まっており、この両方に対応し続けるための事務負担は、経営者一人が背負うにはあまりに重いものになりつつあります。

この記事のまとめ
  • 訪問看護ステーション数は約4倍に急増する一方、廃止・休止届出数も増加傾向(令和2年度541件→令和6年度886件)
  • 令和8年度診療報酬改定(令和8年6月施行)では、ベースアップ評価料・管理療養費の充実と、記録・運営基準の厳格化が同時に進んだ
  • 令和8年度介護報酬改定(期中改定)で、訪問看護が初めて介護職員等処遇改善加算の対象に(加算率1.8%)。ただし取得には要件充足と事務手続きが必要
  • M&Aによるグループ入りで、制度対応の事務体制・加算取得力・処遇改善の仕組みを組織として持てる可能性がある

制度対応に追われる毎日に、一人で向き合い続ける必要はありません。まずは無料査定で、自分の事業所の現在地を客観的に知ることから始めてみてください。

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上妻 裕弥看護師/MBA取得
株式会社ビジケア代表取締役/看護師・MBA取得。これまで200社以上の訪問看護事業所へ経営コンサルティング・BPOサービスを実施。経営者・管理者のサロン等も含めると500社を超える。単月黒字化から複数拠点展開、事業承継まで支援し、看護師の視点で「続く経営」をつくる。別法人にて自身でも全国に訪問看護ステーション展開している。