「一人で訪問することへの不安が消えない」「利用者さんの前で失敗できないという緊張感がつらい」「職場の人間関係にどっと疲れてしまった」——訪問看護師として働くなかで、こうした悩みが積み重なり、退職を考えたことがある方は少なくないはずです。
ただ、退職理由の中には対策次第で状況が変わる可能性があるものも含まれています。この記事では、訪問看護でよく見られる退職理由を3つに整理し、それぞれの対策と、退職を決める前に一度立ち止まって考えたいケースを解説します。
- 看護職員全体の離職率の傾向
- 訪問看護でよく見られる3つの退職理由
- それぞれの退職理由に対する現場でできる対策
- 退職を決める前に一度踏み留まって考えたいケース
目次
看護職員の離職率はどのくらい?
公益社団法人日本看護協会が実施した「2025年 病院看護実態調査」によると、2024年度の看護職員の離職率は、正規雇用看護職員が11.0%、新卒採用者が8.4%、既卒採用者が16.1%となっており、いずれも2023年度とほぼ同様の水準でした。
この調査は病院に勤務する看護職員を対象としたものであり、訪問看護ステーションに特化した離職率の統計ではありません。訪問看護は病院とは異なる働き方の特性(単独訪問・オンコール対応・少人数の職場等)があるため、離職の背景にある事情も病院勤務とは異なる部分があります。以降では、訪問看護の現場でよく聞かれる退職理由を具体的に見ていきます。

退職を考える方の多くは、年末や年度末に「このまま続けるべきか」と一人で悩みを抱え込んでいる印象があります。まずは自分の退職理由がどのタイプに近いか、整理してみることから始めてみましょう。
訪問看護でよく見られる退職理由①|知識・技術への不安
訪問看護は、病院での経験があっても「一人で判断しなければならない」場面が多く、知識・技術への自信が揺らぎやすい仕事です。独り立ちした直後に、これまで経験したことのない疾患や処置に遭遇し、「自分にはまだ荷が重い」と感じて退職を考えるケースが見られます。
- 病院での経験は豊富でも、訪問看護特有の個別対応に戸惑う
- 独り立ち直後で、判断に自信が持てない
- マニュアルや参考資料が整っておらず、振り返りができない

知識・技術への不安は、経験年数が浅いことそのものが原因というより、「振り返りの機会がない」ことが大きく影響しています。一人ひとりの経験に合わせた研修期間の設定や、訪問後に思考過程を確認し合う時間を設けることが有効です。
訪問看護でよく見られる退職理由②|訪問特有の緊張感による精神的負担
訪問看護は、利用者さんの自宅という環境で、限られた時間の中で一人で観察・判断・処置を行う必要があります。院内看護であれば近くにいる同僚や医師にすぐ相談できますが、訪問看護ではその場に相談相手がいません。この「一人で完結させなければならない」という緊張感が、じわじわと精神的な負担として積み重なっていきます。
特に、緊急対応やオンコールが続く時期は、休日でも気が休まらず、蓄積した疲労が退職の決断につながることがあります。
訪問看護でよく見られる退職理由③|管理者や職員との人間関係
訪問看護ステーションは病院に比べて職員数が少なく、一人ひとりの存在感が大きい職場です。そのため、少人数だからこその派閥や価値観の違いが目立ちやすく、人間関係のこじれが退職理由になりやすい傾向があります。
直接顔を合わせる時間が限られる訪問看護の働き方では、意識的にコミュニケーションの機会を作らないと、誤解や不満がすれ違ったまま蓄積してしまいます。事務所に立ち寄る時間がスタッフごとにずれてしまい、必要な情報共有すら十分にできないまま関係がこじれていく、というのもよくあるパターンです。

管理者が組織としてできる離職防止の取り組み
退職理由の多くは、職員一人の努力だけで解決できるものではなく、組織としての仕組みづくりが欠かせません。管理者の立場からは、次のような取り組みが離職防止につながります。
定期的な面談で「気づく仕組み」を作る
訪問看護は職員が単独で動く時間が長いため、管理者が変化に気づきにくい働き方です。月1回程度の定期面談を設け、業務量・体調・人間関係について率直に話せる機会を作ることが、早期の異変察知につながります。
オンコール・緊急対応の負担を可視化する
精神的負担の多くは、オンコール当番の偏りや緊急対応の頻度が見えにくいことから生じます。当番の回数・対応件数を記録し、特定の職員に負担が偏っていないかを定期的に確認する仕組みを持つことが有効です。
新人・経験浅い職員への同行支援を手厚くする
独り立ちの時期を急がず、本人の理解度に応じて同行訪問の期間を調整することが、知識・技術への不安を減らす近道になります。「もう一人で行けるはず」という管理者側の思い込みが、退職の引き金になっているケースも見られます。
離職防止の取り組みは、退職の意思表示があってから慌てて始めても効果が薄くなります。日常的な面談・当番管理・同行支援の仕組み化を、退職者が出る前から継続しておくことが重要です。
それぞれの退職理由への対策
| 退職理由 | 現場でできる対策 |
|---|---|
| 知識・技術への不安 | 経験に応じた研修期間の設定、訪問後の振り返り面談、マニュアル・参考資料の整備、外部研修への参加支援 |
| 精神的負担 | いつでも相談できる連絡体制の整備、オンコール当番の分担見直し、休日は完全にオフにできる環境づくり |
| 人間関係 | 定期的な短時間ミーティングの実施、1on1での本音の共有、管理者から声をかける機会を意識的に増やす |

対策のポイントは「一人で抱え込ませない仕組み」を作ることです。相談できる相手がいるだけで、不安や緊張感の感じ方は大きく変わりますね。
退職を決める前に一度踏み留まって考えたいケース
退職理由の中には、時間や環境の変化で改善する可能性があるものもあります。次のようなケースに当てはまる場合は、退職を決断する前に一度立ち止まって考えてみることをおすすめします。
- 勤務期間がまだ短く、知識・技術への不安が主な理由になっている
- 精神的な負担の原因が、特定の時期の業務量の多さに起因している
- 職場の人間関係が、一部の行き違いを除けばおおむね良好である
反対に、ハラスメントや人員基準を無視した過重労働など、明らかに改善が見込めない環境であれば、無理に留まる必要はありません。踏み留まるかどうかの判断は、「改善のために自分から動く余地があるか」を基準に考えるとよいでしょう。
退職を決めた場合に気をつけたい引き継ぎのポイント
相談を重ねてもなお退職を決断する場合は、利用者さんに不利益が出ないよう、引き継ぎを丁寧に行うことが大切です。
- 早めの意思表示就業規則に定められた期間(多くは1〜2か月前)を踏まえ、できるだけ早く管理者に意思を伝える。
- 担当利用者の情報整理担当していた利用者さんごとに、経過・注意点・家族との関係性などを文書にまとめる。
- 同行での引き継ぎ可能であれば後任の看護師と一緒に訪問し、利用者さん・家族に直接紹介する機会を作る。
- 関係機関への連絡主治医・ケアマネジャー等、連携先への担当変更の連絡を管理者と協力して行う。
丁寧な引き継ぎは、利用者さんの安心につながるだけでなく、退職後も同業界で良好な関係を保つうえでも大切なプロセスです。
よくある質問
訪問看護師の離職率は病院と比べて高いのですか?
訪問看護ステーションに特化した公的な離職率統計は確認できていません。日本看護協会の「2025年病院看護実態調査」では、病院に勤務する正規雇用看護職員の離職率は11.0%(2024年度)と報告されていますが、これは病院を対象とした数値であり、訪問看護と単純に比較できるものではありません。
訪問看護で最も多い退職理由は何ですか?
現場でよく聞かれるのは、知識・技術への不安、訪問特有の緊張感による精神的負担、管理者や職員との人間関係の3つです。特に独り立ち直後の時期は、知識・技術への不安が退職を考えるきっかけになりやすい傾向があります。
退職を考えたとき、まず誰に相談すればよいですか?
まずは直属の管理者や先輩看護師に、悩みの具体的な内容を伝えてみることをおすすめします。訪問看護は少人数の職場のため、率直に伝えることで改善策が見つかる場合があります。改善が難しい場合は、事業所外の相談窓口や転職エージェントに相談する方法もあります。
知識・技術への不安はどのくらいで解消されますか?
個人差が大きく一律の期間を示すことはできませんが、多くの場合、経験を積み重ね、訪問後の振り返りや相談を続けることで、徐々に自信を持てるようになっていきます。一人で抱え込まず、早い段階で相談する習慣をつけることが近道です。
人間関係が原因で退職する場合、次の職場選びで気をつけることはありますか?
面接や見学の際に、職員同士のコミュニケーションの様子や、管理者が職員の相談にどう対応しているかを確認するとよいでしょう。定期的なミーティングの有無や、相談しやすい雰囲気があるかも判断材料になります。
退職を決めた場合、いつまでに伝えるべきですか?
多くの事業所では就業規則で1〜2か月前までの申し出を求めています。利用者さんへの引き継ぎには一定の時間がかかるため、退職を決めたら早めに管理者へ意思を伝え、担当利用者の情報整理や同行での引き継ぎに十分な時間を確保することが望ましいです。
上記調査は病院に勤務する看護職員を対象としたものです。訪問看護ステーションに特化した離職率等の統計ではない点にご留意ください。
まとめ|退職理由を整理し、改善できる余地を見極めよう
訪問看護でよく見られる退職理由は、知識・技術への不安、精神的負担、人間関係の3つに大別できます。それぞれに対策の余地があることも多く、退職を決める前に一度立ち止まって状況を整理することが大切です。
- 知識・技術への不安には、経験に応じた研修と振り返りの仕組みが効果的
- 精神的負担には、相談体制の整備と休日の完全なオフが重要
- 人間関係には、定期的なコミュニケーションの機会づくりが有効
- 改善の余地があるケースは、退職前に一度踏み留まって考える価値がある
管理者は職員の困難にいち早く気づく努力を、職員は相談することで見えてくる改善策を、それぞれ大切にしていきましょう。
























