赤字の訪問看護ステーションでもM&Aで売却できる?買い手がつくケースを解説

「M&Aなんて、黒字で将来性のある会社の話。うちみたいに赤字続きで、正直なところ債務超過ぎりぎりのステーションには関係ない」——そう感じている経営者の方は少なくないはずです。資金繰りに追われ、毎晩オンコールに怯えながら、それでも決算書の数字だけを見て「もう売ることすらできない」と静かに諦めてしまう。

しかし、結論から言えば、赤字・債務超過だからといって、M&Aの対象にならないとは限りません。買い手が本当に見ているのは決算書の数字だけではないからです。この記事では、赤字・債務超過の訪問看護ステーションでも買い手がつく理由と、実際に「評価されやすいケース」「評価されにくいケース」の違いを、公的機関の資料や業界データをもとに具体的に解説します。

この記事でわかること
  • 赤字・債務超過の訪問看護ステーションでもM&Aの対象になり得る根拠
  • 買い手が実際に評価しているのは「決算書の数字」ではなく何なのか
  • 買い手がつきやすいケース・つきにくいケースの具体的な違い
  • 赤字状態でM&Aを検討する際に注意したい手続きと費用のポイント

そもそも「赤字・債務超過だから売れない」は思い込みかもしれません

訪問看護ステーションのM&Aの基本的な仕組みや全体の流れについては、別記事「訪問看護ステーションにおけるM&Aとは?基本から分かりやすく解説」で紹介していますので、ここでは「赤字・債務超過でも対象になるのか」という一点に絞って解説します。

中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン(第3版)」には、経営状況が良好でない中小企業においてM&Aが成立した事例として、「赤字であるにもかかわらず成立した事例」「債務超過であるにもかかわらず成立した事例」が明記されています。同ガイドラインは「事業の価値は最終的には譲り受け側の評価により決まるものであり、一概に債務超過だからといって廃業しか選択肢がないとは限らない」としたうえで、簿価上は債務超過でも、資産・負債を時価評価し直すと実態としては資産超過であることが判明するケースもあると説明しています。

看護師 上妻
看護師 上妻

「赤字=価値がない」と決めつけて、相談すらしないまま廃業を選んでしまうのはもったいないですよね。まずは自分のステーションに、どんな価値が眠っているのかを知ることから始めてみましょう。

買い手が本当に見ているのは「決算書の数字」ではありません

では、買い手は赤字の訪問看護ステーションの何を評価しているのでしょうか。中小M&Aガイドラインも、譲り渡し側の評価対象は収支・財務の状況だけに限られず、「優秀な従業員」「地域内・業界内における知名度・信用」「許認可」といった無数の要素が評価され得ると述べています。訪問看護ステーションの場合、これは具体的に次の2つに置き換えられます。

1. すでに採用済みで、チームとして稼働している看護師

訪問看護業界の人材不足は、他の医療・介護分野と比べても際立って深刻です。公益社団法人日本看護協会が公表した2024年度の調査では、都道府県ナースセンターの施設種類別の求人倍率のうち訪問看護ステーションが4.54倍と最も高く、全体の求人倍率2.51倍を大きく上回りました。裏を返せば、買い手にとって「一から看護師を採用してチームを組成する」ことは、それ自体が極めて難易度の高い経営課題です。すでに看護師が定着し、日々の訪問体制が回っているステーションを丸ごと引き継げることは、決算書には表れない大きな価値になります。

2. すでに取得している「指定」と、そこに紐づく地域の利用者

訪問看護ステーションを新規開設するには、保健師・看護師・准看護師を常勤換算で2.5人以上配置するなど一定の人員基準を満たしたうえで、都道府県・指定都市等から指定を受ける必要があります。ゼロから人員をそろえて指定を取得し、地域で利用者との契約を積み上げていくには相応の時間がかかります。すでに指定を受けて稼働し、地域の利用者を確保している事業所は、その「立ち上げ済みであること」自体が買い手にとっての価値になり得るのです。

看護師 上妻
看護師 上妻

採用に苦労している法人ほど、「もう人が揃っている」ことの価値をよくわかっています。数字だけを見て諦める前に、そういう視点があることを知っておいてほしいです。

実際に「買い手がつきやすいケース」「つきにくいケース」の違い

とはいえ、赤字・債務超過であれば無条件に買い手がつくわけではありません。同じ「赤字」でも、内容によって評価は大きく変わります。

観点買い手がつきやすいケース買い手がつきにくいケース
看護師の状況離職は少なく、日々の訪問体制が安定している離職が続き、稼働できる看護師が慢性的に不足している
赤字の原因設備投資や増員など、原因が一時的で説明できる利用者離れが続くなど、原因が構造的で歯止めがかからない
指定・行政対応指定に関する行政処分歴がなく、実地指導にも対応済み指定取消や度重なる行政指導の履歴がある
利用者数の推移横ばい、または緩やかな減少にとどまっている短期間で急激に減少し続けている
書類の整備状況決算書・利用者名簿・雇用契約書等が整理されている書類が未整備で、実態の把握そのものが困難
注意

「つきにくいケース」に当てはまるからといって、M&Aが不可能というわけではありません。ただし、相談のタイミングが遅れるほど、選べる相手や条件の選択肢は確実に狭まっていきます。看護師の離職や利用者数の減少が進行している最中こそ、早めに専門家へ相談する価値があります。

赤字・債務超過のM&Aで得られる3つの価値

買い手がつく可能性があるとわかったところで、経営者にとってM&Aが持つ意味を整理します。大切なのは、「赤字だから安く買い叩かれて終わり」という単純な話ではないということです。たとえ債務超過であっても、買い手は「在籍する看護師」「地域で確保している利用者(指定)」そのものに、数千万円規模の価値を見出すことがあります。この価値は、大きく3つに整理できます。

1. 雇用の維持と処遇改善(大義)

廃業すればスタッフ全員が職を失いますが、M&Aで事業が存続すれば、看護師・リハビリ職の雇用はそのまま維持されます。経営基盤の安定した買い手であれば、給与体系や福利厚生が改善され、慢性的な採用難にも一定の歯止めがかかることが期待できます。

2. 地域医療の持続(社会的責任)

訪問看護を必要とする利用者にとって、担当していたステーションが突然なくなることは、生活と療養の継続を脅かす重大な出来事です。M&Aによって事業が引き継がれれば、利用者は同じステーション、あるいは同じスタッフから継続してケアを受けられます。地域に訪問看護という社会インフラを残すこと自体が、経営者に課せられた社会的責任を果たす選択だといえます。

3. 債務・個人保証からの解放とリスタート(実利)

そして経営者本人にとって最も切実なのが、この3つ目です。M&Aが成立すれば、法人の借入金は買い手に引き継がれるか、売却対価によって整理されます。中小M&Aガイドラインでも、債務超過企業のM&A支援においては「経営者保証に関するガイドライン」に即した保証債務の整理への対応が言及されており、金融機関との交渉次第では経営者個人の連帯保証を解除できるケースもあります。何より大きいのは、経営責任と24時間365日のオンコール対応の重圧から完全に解放されることです。自分が倒れて突然廃業し、スタッフと利用者を路頭に迷わせる最悪のシナリオを回避したうえで、経営権を手放して一人の看護師・現場プレイヤーに戻り、夜、電話に怯えることなく眠れる生活を取り戻せる——これこそが、資金繰りとオンコールに疲弊した経営者にとってのM&Aの本当の価値です。

POINT

廃業を選ぶと、従業員への退職金、賃貸物件の違約金、リースの残債一括請求、経営者個人の保証債務の返済といった数百万〜数千万円規模の費用が発生し、最悪の場合は自己破産に至ることもあります。M&Aは、この廃業コストをゼロにし、負債を引き継いでもらうか売却対価で相殺したうえで、手元にリスタートのための資金を残せる「債務整理・再起の手段」でもあるのです。

手法を選ぶときの注意点|指定申請の「空白期間」リスク

赤字・債務超過のステーションでは、負債を切り離しやすい「事業譲渡」という手法が選ばれることがあります。ただし事業譲渡では、買い手側が訪問看護の指定を新たに取得し直す必要があります。ここで行政との調整が1日でもずれると、数週間から1ヶ月にわたり介護報酬・診療報酬が一切請求できない「空白期間」が発生します。

注意

ただでさえ資金繰りが厳しい事業所にとって、売上ゼロの空白期間はスタッフへの給与未払い・黒字倒産に直結しかねない重大なリスクです。回避するには、管轄の都道府県・厚生局との「同日廃止・同日新規指定」の緻密な調整、あるいは適切な株式譲渡への切り替えが必要になります。だからこそ、訪問看護の実務と行政手続きの双方を熟知した専門家のサポートが欠かせません。

費用はどれくらい?「最低手数料」の罠に要注意

M&A仲介の手数料は、一般的に成約額に応じて段階的に手数料率が下がる「レーマン方式」で算出されます。ここで見落とされがちなのが、最低手数料の壁です。大手・中堅のM&A仲介会社の中には、最低手数料を1,000万円〜2,000万円程度に設定しているところもあり、赤字や小規模を理由に譲渡額が小さくなりやすい訪問看護ステーションの場合、手数料を差し引くと手元にほとんど資金が残らない「手数料負け」が起こり得ます。

POINT

M&A仲介会社を選ぶ際は、手数料率だけでなく「最低手数料がいくらに設定されているか」を契約前に必ず確認してください。訪問看護特化・小規模事業所に配慮した手数料体系を採用している支援先かどうかも、比較検討の材料になります。

看護師 上妻
看護師 上妻

赤字だと「相談しても相手にされないのでは」と不安になりますよね。でも無料相談・無料査定の段階では、実際に売るかどうかを決める必要はありません。まずは自分の事業所にどんな価値があるのか、知ることから始めてみてください。

よくある質問

赤字が続いている訪問看護ステーションでも、M&Aの買い手は本当に見つかりますか?

決算書上は赤字・債務超過であっても、看護師の稼働体制や地域での指定・利用者基盤に価値を見出す買い手がいます。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」にも、赤字や債務超過の状態でM&Aが成立した事例が紹介されており、赤字であることだけを理由に相談を諦める必要はありません。

債務超過の場合、負債はどうなりますか?

負債の扱いは手法や交渉内容によって異なりますが、買い手に事業とともに引き継がれるケースや、売却対価によって整理されるケースがあります。あわせて代表者の個人保証についても、金融機関との交渉によって整理できる可能性があるため、早い段階で専門家に相談することが重要です。

具体的にどのような事業所だと買い手がつきやすいのでしょうか?

看護師が定着し安定して稼働できている、赤字の原因が一時的な先行投資など説明できる、指定に関する行政処分歴がない、といった事業所は評価されやすい傾向にあります。逆に看護師の離職が続き稼働率が著しく低い場合や、利用者数の減少に歯止めがかからない場合は、相談のタイミングが遅れるほど選択肢が狭まります。

廃業と比べて、M&Aにはどのようなメリットがありますか?

廃業には従業員への退職金、賃貸物件の違約金、リースの残債一括請求、個人保証の返済といった数百万円〜数千万円規模の費用が発生することがあります。M&Aであれば、これらの負担を回避しながら雇用と地域の訪問看護サービスを維持し、経営者自身も次のキャリアに向けて再スタートを切りやすくなります。

事業譲渡を選ぶ場合、何に注意すればよいですか?

事業譲渡では、訪問看護の指定を買い手側で新たに取得する手続きが必要になります。行政との調整が1日でもずれると、数週間から1ヶ月程度、介護報酬・診療報酬を一切請求できない「空白期間」が生じ、資金繰りが厳しい事業所では給与の未払いなど深刻な事態につながりかねません。同日廃止・同日新規指定の調整に慣れた専門家に早めに相談することをおすすめします。

相談したら必ず売却しなければなりませんか?

いいえ。無料相談や無料査定の段階では、実際にM&Aを進めるかどうかを決める必要はありません。まずは自社にどの程度の価値があるのかを把握したうえで、廃業と比較検討する材料として活用いただけます。

あわせて読んでおきたい関連記事

M&Aの基本的な仕組みや、株式譲渡・事業譲渡それぞれの特徴についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

訪問看護ステーションにおけるM&Aとは?基本から分かりやすく解説を読む

まとめ|赤字・債務超過でも、まず「価値を知る」ことから

赤字や債務超過という決算書の数字だけを見て、M&Aという選択肢を自ら閉ざしてしまうのは早計です。買い手が本当に評価しているのは、日々の訪問を支えている看護師というチームと、地域で積み上げてきた指定・利用者基盤だからです。

この記事のまとめ
  • 中小企業庁の中小M&Aガイドラインでも、赤字・債務超過の状態で成立したM&A事例が示されている
  • 訪問看護ステーションの看護師有効求人倍率は4.54倍と高く、稼働中の人材そのものが買い手にとっての価値になる
  • 看護師の定着状況・赤字の原因・指定や書類の整備状況によって、買い手のつきやすさは変わる
  • 事業譲渡を選ぶ場合は指定申請の空白期間リスク、費用面では最低手数料の罠に注意が必要

「うちは赤字だから関係ない」と決めつける前に、まずは無料相談・無料査定で、自分のステーションに眠っている価値を確認してみることをおすすめします。

訪問看護特化の事業承継・M&A支援「ビジケア」について

ビジケアは、これまで訪問看護ステーションの経営サポートを通じて、数多くの事業所の課題に寄り添ってきました。その経験・知見・ネットワークを活かし、訪問看護ステーションに特化した事業承継・M&A支援サービスを提供しています。

国が創設したM&A支援機関登録制度の登録を受け、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」の遵守にも取り組んでおり、ご相談・お相手探しにかかる着手金や中間金は一切無料(0円)です。

支援の範囲は、秘密保持契約の締結から、企業価値算定、お相手探し・マッチング、トップ面談・条件交渉、最終契約・引き継ぎ完了まで、一貫してサポートします。

訪問看護ステーション特化の事業承継・M&A支援
後継者問題も、その先の事業の成長も。まずは無料相談から。

ビジケアは、訪問看護業界に特化した経験・知見・ネットワークを活かし、売手側の利益最大化に専念してご支援します。ご相談・お相手探しの着手金・中間金は無料(0円)でご利用いただけます。

  • 現場を知り尽くしているからこその「適正評価」
  • 専門家による「安心の承継サポート」
  • 広範なネットワークを活用したご縁つなぎ
サービス詳細はこちら

ビジケア公式LINEに登録すると、訪問看護に関する最新情報(診療報酬や介護報酬改定を中心とした内容)が月に2回無料で配信されます。

最新セミナー情報やお得なご案内も配信していますので、よろしければ登録をお願いします。

友だち追加

 

ABOUT US
上妻 裕弥看護師/MBA取得
株式会社ビジケア代表取締役/看護師・MBA取得。これまで200社以上の訪問看護事業所へ経営コンサルティング・BPOサービスを実施。経営者・管理者のサロン等も含めると500社を超える。単月黒字化から複数拠点展開、事業承継まで支援し、看護師の視点で「続く経営」をつくる。別法人にて自身でも全国に訪問看護ステーション展開している。