近年、医療技術や在宅支援体制の進歩により、筋ジストロフィーの方が住み慣れた地域で長期間療養を続けるケースが増えています。
しかしこの疾患は骨格筋の進行性の萎縮にとどまらず、心筋や呼吸筋にも障害が及ぶことが特徴で、呼吸不全や心機能低下による合併症がQOLや生命予後に大きく影響します。
こうした多面的な変化に早期から気づき、栄養・呼吸・生活支援を総合的に調整できる存在として、訪問看護師の役割は極めて重要です。
日々の観察を通して小さなサインを拾い上げ、医師や多職種に共有することで、進行に応じた介入や胃瘻造設を含む栄養管理を計画的に進めることが可能となります。
今回は、筋ジストロフィー利用者さんの胃瘻造設の導入のタイミングについて訪問看護師の視点から考えていきましょう。
目次
筋ジストロフィー利用者さんが胃瘻造設を検討するタイミング
筋ジストロフィーは、進行すると嚥下機能の低下や呼吸筋の低下により、低栄養と誤嚥性肺炎のリスク増大という二大課題に直面します。
胃瘻造設は、経口摂取が困難になった際に栄養を安定して届ける方法の一つです。
これらは、低栄養と誤嚥性肺炎の二大課題のリスクを管理し、利用者さんのQOLと生命予後を支える重要な手段となります。
筋ジストロフィー利用者さんは、嚥下障害が明らかになる前から体重減少や食欲低下が進むことがあり、「まだ食べられるから」と判断が遅れるケースも少なくありません。
胃瘻造設のタイミングは、単なる体重減少だけではなく、多角的なアセスメントに基づいて、医師・管理栄養士・リハビリ・訪問看護師を交えた多職種チームで決定されます。
訪問看護師は、利用者さんの日常の「細やかな変化」を観察し、チームへ情報を提供することが重要です。
- 著しい体重減少:1ヶ月で5%以上の減少
- 経口摂取カロリーが充分にとれていない
- 誤嚥性肺炎を繰り返している
- 呼吸機能の低下に伴う換気機能の悪化:安静時の呼吸数増加、spO2低下
- 食事時間の延長:1食に30分以上かかる
- 食事での疲労感
体重減少や食事時間の延長、嚥下時のむせなどが見られた段階で、適切な栄養補給の方法を再検討することも必要となってきます。
また、嚥下機能の低下から唾液の飲み込みが難しくなることが多く、唾液を吐き出すことも多くみられます。
これらの状態がみられた場合、医師、栄養士やリハビリと情報共有し、評価を行い、利用者さん本人と家族が導入のタイミングを理解できるようサポートすることが重要です。
ACPの重要性
最も理想的なのは、十分な体力があるうちに計画的に造設することです。
全身状態が極度に悪化してからでは、手術自体が大きな負担となり、合併症のリスクも高まります。
訪問看護師は、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の視点を取り入れ、利用者さんやご家族と早い段階から胃瘻の意義、メリット、デメリットについて話し合いを重ね、利用者さんの意向を尊重した最適なタイミングで意思決定がなされるよう支援することが求められます。
胃瘻導入は、利用者さん本人や家族にとって大きな決断です。
「口から食べられなくなる」という心理的負担は計り知れません。
訪問看護師は、導入後も場合によっては経口摂取が可能な範囲で継続できることや、栄養状態が安定することで体力が保たれ、好きな食事を安全に楽しめる時間が延ばせることを説明し、前向きに受け止められるよう支援が必要です。
筋ジストロフィー利用者さんの在宅での胃瘻管理
胃瘻は内視鏡を用いて胃と腹壁をつなぐ「PEG(経皮内視鏡的胃瘻造設)」が一般的です。
全身麻酔を必要としないため身体への負担が少なく、筋力低下が進んだ利用者さんでも実施しやすい利点があります。
訪問看護師は手術に向けて本人・家族の不安を傾聴し、手技や術後の管理方法をわかりやすく説明する役割があります。
- 物品の管理方法
- 注入手順(体位、注入速度、手技)の確認
- 胃瘻周囲のケア方法
- トラブル時の対応方法
特にカテーテル抜去、発熱、激しい腹痛などのトラブルにパニックに陥らないように、緊急連絡先を共有し、連絡すべき症状を明確にしておくことで家族の精神的サポートにもつながります。
多職種連携で支える在宅生活
胃瘻造設後の生活を安定させるには、医師、管理栄養士、リハビリスタッフ、福祉サービスなど多職種の連携が不可欠です。
栄養評価や体重変化の情報を共有し、注入スケジュールや内容を柔軟に調整することで、利用者さんの体調変化に迅速に対応することができます。
訪問看護師はそのハブとして、他職種との連絡を円滑にし、利用者さんと家族が安心して在宅生活を続けられる環境を整えることが大切です。
まとめ
筋ジストロフィー利用者さんにおける胃瘻導入は、単なる栄養手段にとどまらず、QOLを守る重要な選択肢です。
訪問看護師は日々の観察と家族支援を通じて、利用者さんが自分らしい生活を続けるための大きな力となります。
早期の情報提供と多職種連携を意識し、導入から在宅管理まで一貫した支援を行うことが、安心できる在宅療養の実現につながります。