みなさん、「特定行為看護師」を聞いたことはありますか?
看護師の方でも、聞いたことはあるけど、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
特定行為看護師について知らない方、特定行為看護師に興味のある方に向けて、特定行為看護師とは何か、特定行為看護師になる方法について解説していきます。
また特定行為看護師として働くメリット4つもご紹介していきます。
では早速解説していきます。
目次
特定行為看護師とは?
特定行為は、診療の補助であり、看護師が手順書により行う場合には、実践的な理解力、思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされる行為のことです。
手順書に基づいて、特定行為を実施できる看護師のことを特定行為看護師と言います。
しかし法律上、特定行為看護師という資格はありません。
国の研修制度ではありますが、研修を終了したことで資格を取得することができるわけではなく、手順書に基づいて特定行為を実施することが可能になるというものになります。
資格が取得されるわけではありませんが、研修を修了すると修了証が発行されます。
2015年に厚生労働大臣が施行した「特定行為に係る看護師の研修制度」も参考にしてみてください。
特定行為の種類
特定行為には種類があり、21区分38行為があります。
特定行為区分の名称 |
特定行為 |
1.呼吸器(気道確保に係るもの)関連 | 1.経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整 |
2.呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 | 2.侵襲的陽圧換気の設定の変更 |
3.非侵襲的陽圧換気の設定の変更 | |
4.人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整 | |
5.人工呼吸器からの離脱 | |
3.呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 | 6.気管カニューレの交換 |
4.循環器関連 | 7.一時的ペースメーカの操作及び管理 |
8.一時的ペースメーカリードの抜去 | |
9.経皮的心肺補助装置の操作及び管理 | |
10.大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度の調整 | |
5.心 嚢 ドレーン管理関連 | 11.心 嚢 ドレーンの抜去 |
6.胸腔ドレーン管理関連 | 12.低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更 |
13.胸腔ドレーンの抜去 | |
7.腹腔ドレーン管理関連 | 14.腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された 穿 刺針の抜針を含む。) |
8.ろう孔管理関連 | 15.胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換 |
16.膀胱ろうカテーテルの交換 | |
9.栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 | 17.中心静脈カテーテルの抜去 |
10.栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 | 18.末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入 |
11.創傷管理関連 | 19.褥 瘡 又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去 |
20.創傷に対する陰圧閉鎖療法 | |
12.創部ドレーン管理関連 | 21.創部ドレーンの抜去 |
13.動脈血液ガス分析関連 | 22.直接動脈 穿 刺法による採血 |
23.橈 骨動脈ラインの確保 | |
14.透析管理関連 | 24.急性血液浄化療法における血液透析器又は血液透析 濾過器の操作及び管理 |
15.栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 | 25.持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整 |
26.脱水症状に対する輸液による補正 | |
16.感染に係る薬剤投与関連 | 27.感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与 |
17.血糖コントロールに係る薬剤投与関連 | 28.インスリンの投与量の調整 |
18.術後 疼 痛管理関連 | 29.硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整 |
19.循環動態に係る薬剤投与関連 | 30.持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整 |
31.持続点滴中のナトリウム、カリウム又はクロールの投与量の調整 | |
32.持続点滴中の降圧剤の投与量の調整 | |
33.持続点滴中の糖質輸液又は電解質輸液の投与量の調整 | |
34.持続点滴中の利尿剤の投与量の調整 | |
20.精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 | 35.抗けいれん剤の臨時の投与 |
36.抗精神病薬の臨時の投与 | |
37.抗不安薬の臨時の投与 | |
21.皮膚損傷に係る薬剤投与関連 | 38.抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整 |
これらの種類の中から、自分が興味を持った特定行為を受講することができます。
特定行為看護師になるには?
特定行為看護師になるには、厚生労働大臣が指定した特定行為研修を行う学校や病院などで研修を受講し、合格する必要があります。
最低限必要となる受講資格は、看護師免許を保有していることです。
指定研修機関によって条件は異なりますが、看護師としての臨床経験が3~5年以上としているところが多いです。
申し込みを行う前に、事前に指定研修機関の条件を確認しておくようにしましょう。
受講できる機関
研修は厚生労働省が指定する指定研修機関で行われます。
令和5年2月時点で全国に360機関あります。
ただし、研修機関によって受講できる区分が異なるため、自分が受講したい行為がその機関にあるか確認しましょう。
研修を実施している指定研修機関と受講したい行為を下記から確認してみてください。
研修先に登校し、受講する機関もあれば、全ての研修をeラーニングの動画研修で実施する機関もあります。
eラーニングの場合は登校の必要はなく、自宅等で受講することが可能になります。
研修内容
研修内容には共通科目と区分別科目の2種類があります。
全ての区分に共通する知識や技術向上を図る共通科目は250時間、区分ごとに異なる知識や技術の向上を図る区分別科目は5〜34時間を受講する必要があります。
共通科目 | 学習内容 | 所要時間 |
臨床病態生理学 | 解剖・薬理・生理 | 30時間 |
臨床推論 | 臨床診断学・検査学・症候学 | 45時間 |
フィジカルアセスメント | 身体診察、診断学 | 45時間 |
臨床薬理学 | 薬剤学、薬理学 | 45時間 |
疾病・臨床病態概論 | 主要疾患の臨床診断・治療 | 40時間 |
医療安全学/特定行為実践 | 医療倫理、安全管理、ケアの質保証、関連法規、意思決定支援、手順書作成など | 45時間 |
区分別科目(21区分) | 所要時間 |
呼吸器(気道確保)関連 | 9時間 |
呼吸器(人工呼吸療法)関連 | 29時間 |
呼吸器(長期呼吸療法)関連 | 8時間 |
循環器関連 | 20時間 |
心嚢ドレーン管理関連 | 8時間 |
胸腔ドレーン管理関連 | 13時間 |
腹腔ドレーン管理関連 | 8時間 |
ろう孔管理関連 | 22時間 |
栄養に係るカテーテル管理関連(CVC) | 7時間 |
栄養に係るカテーテル管理関連(PICC) | 8時間 |
創傷管理関連 | 34時間 |
創部ドレーン管理関連 | 6時間 |
動脈血液ガス分析関連 | 13時間 |
透析管理関連 | 11時間 |
栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 | 16時間 |
感染に係る薬剤管理関連 | 29時間 |
血糖コントロールに係る薬剤投与関連 | 16時間 |
術後疼痛管理関連 | 8時間 |
循環動態に係る薬剤投与関連 | 26時間 |
精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 | 26時間 |
皮膚損傷に係る薬剤投与関連 | 17時間 |
受講期間は各機関によって異なるため、事前にスケジュールを確認しておきましょう。
また、講義・演習後には実習があります。
実習は受講生の所属施設等(病院や訪問看護ステーション等)での実施も可能になります。
研修は長期間となるため、日々の業務との両立になる場合には、職場と相談し、業務スケジュールを立てて受講する必要があります。
受講費用
受講にかかる費用は約30〜250万円と高額になります。
病院や施設によっては、受講費用を免除や助成制度がある場合があるので、自分が勤務する職場にはそのような制度があるか確認してみましょう。
また、研修の実施期間が厚生労働省の指定を受けていれば、下記の支援制度の対象となる場合もあります。
- 教育訓練給付:一定の要件を満たした雇用保険の被保険者、または被保険者でなくなってから1年以内であれば受講費用の4割(上限20万円)を受給できる
- 人材開発支援助成金:事業主が雇用者に専門的な知識および技能の習得のための訓練等を計画的に実施した場合、受講費用や受講期間中の賃金の一部が助成される
- 地域医療介護総合確保基金:いくつかの都道府県では、受講生や受講生が所属する施設に対して、受講料や代替職員を雇用するための費用を支援
特定行為看護師になるメリット
受講費が高く、受講期間も長期間となるため、特定行為看護師の研修を修了することは大変です。
大変だからこそ、特定行為研修を修了するメリットがいくつもあります。
- 必要な医療処置を素早く提供することができる
- 給料アップにつながる
- スキルアップになる
- 転職の際有利となる
それぞれ紹介していきます。
必要な医療処置を素早く提供することができる
医師があらかじめ作成した手順書をもとに、医師の指示を待たずに看護師の判断で特定行為を行うことができます。
そのため、迅速な対応を行うことができ、患者の苦痛を軽減することができます。
訪問看護は看護師が一人で対応しなければならないことが多く、看護師の判断力が求められる機会が多々あります。
訪問看護師として働く中で、「医師が近くいない環境だからこそ、医師の指示を待たずに、私が利用者さんの苦痛を最小限にしてあげたい」と思うようになりました。
その思いが、私が特定行為看護師を受講するきっかけとなりました。
今後より在宅医療のニーズが高まっていくため、特に在宅医療では特定行為を持った看護師の需要は更に高くなると考えられます。
給料アップにつながる
特定行為研修を終了すると、手当として支給される職場もあります。
また研修受講中の期間も勤務扱いとして、給料が支給される場合もあります。
受講する前に自分の職場は手当が支給されるのか、受講期間中の給料等についても確認しておくと良いですね。
スキルアップになる
特定行為は専門性の高い知識や技術を習得できる研修になります。
自分の看護師としてのスキルをアップさせることができます。
また特定看護師として経験を積んでいくことで、より自分の看護に自信を持つことができます。
特定行為で学んだことは、日々の看護やアセスメントにも必ず活かされます。
転職に有利になる
特定行為看護師であることで、転職の際に歓迎要件として記載されている職場もあります。
特定行為が可能であることで、転職には有利になると言えるでしょう。
特定行為看護師を目指してみませんか?
本記事では特定行為看護師とは何か、特定行為看護師になる方法、特定行為看護師になるメリットをご紹介しました。
特定行為看護師は、あくまでも研修制度であり、新たに資格を取得する制度ではないことをここで知っておきましょう。
しかし特定行為研修を修了することで、患者さん・利用者さんに必要な医療処置を素早く提供することができ、自分の知識・スキルアップにも繋がります。
これから特定行為看護師を目指そうと思っている方、特定行為看護師に興味がある方、また特定行為看護師を知らなかった方にも、こちらの記事が少しでも役に立てると嬉しく思います。
厚生労働省 【特定行為に係る看護師の研修制度】指定研修機関について