介護サービス事業所が、事業者登録の手続き等に不備がある状態で喀痰吸引等を実施していた事例が確認されています。
喀痰吸引等の行為は医行為に該当し、不適切な実施により利用者の身体に被害を及ぼす恐れもあることから、都道府県による事業者の登録や従事者の認定のほか、医師、看護師等との適切な連携体制や施設、事業所内での安全確保等の体制を整備した上での実施が求められます。
喀痰吸引等の基準や手続きを確認した上で、適切な体制での喀痰吸引等の連携・実施が必要です。
目次
喀痰吸引等制度とは
- 「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」、「社会福祉士及び介護福祉士法」の一部改正案の成立により、平成24年4月より「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度」(喀痰吸引等制度)が制度化
- 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度(喀痰吸引等制度)
- 介護福祉士及び一定の研修を受けた介護職員等は、一定の条件の下にたん吸引等の行為を認めるもの
※従来から一定の条件の下にたん吸引等を実施していた者については、本制度の下でも実施できるために必要な経過措置が設けられている
- たんの吸引その他の日常生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示の下に行われるもの
※保健師助産師看護師法の規定にかかわらず、診療情報の補助として、たんの吸引等を行うことを業とすることができる。
①吸引(鼻腔内・口腔内・気管カニューレ内部)
②胃ろう・腸ろう(空腸ろう)・経鼻経管栄養
実施できる介護職員等の範囲
介護福祉士
介護福祉士の養成カリキュラムの中で、医療的ケアの講義及び演習を実施し、実地研修を修了した行為を介護福祉士登録証に記載
介護福祉士以外の介護職員等
一定の研修を修了した者を都道府県知事が認定(認定特定行為業務従事者認定証を交付)
- 第1号研修修了者 不特定多数の対象者に実施可能
- 第2号研修修了者 不特定多数の対象者に実施可能 ※ただし、気管カニューレ内部の吸引と経鼻経管栄養注入の行為は実施できない
- 第3号研修修了者 特定の対象者に必要な行為のみ実施可能 ※実地研修を行っていない行為はできない
介護福祉士が喀痰吸引等を行う場合は登録喀痰吸引等事業者登録
介護職員等が喀痰吸引等を行う場合は登録特定行為事業所登録
※登録要件(全ての要件に適合している場合は登録できる)
・医師、看護職員等の医療関係者との連携の確保
・記録の整備その他安全かつ適正に実施するための措置
・登録事業者の指導監督に必要な届出、報告徴収を規定をおこなう
- 介護関係施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、グループホーム、有料老人ホーム、通所介護、短期入所生活介護等)
- 障害者支援施設等(通所事業所及びグループホーム等)
- 在宅(訪問介護、重度訪問介護、(移動中や外出先を含む)等)
- 特別支援学校
※医療機関は対象外
- たんの吸引等の研修を行う機関を都道府県知事に登録している
※登録の要件(全ての要件に適合している場合は登録できる)
・基本研修、実地研修を行うこと
・医師・看護師その他の者を講師として研修業務に従事
・研修業務を適正・確実に実施するための基準に適合
・登録研修機関の指導監督に必要な登録の更新制、届出、改善命令等の規定おこなう
指導者講習会としては次のようなものがあります。
ア 都道府県看護協会が実施する指導者講習会
イ 研修実施機関が実施する指導者養成研修
ウ 医療的ケア教員講習会
エ DVDによる自己学習((株)ピュアスピリッツ等)
「実地研修」についての実際
今回は、訪問看護の現場で多い介護職員による喀痰吸引等(第3号研修・特定の者対象)について解説したいと思います。
1 研修の依頼
所属するサービス事業者等(依頼事業者)が指導看護師の所属する訪問看護ステーション等の管理者(承諾事業者)へ実地研修の依頼を依頼書により行います。
依頼を受けた訪問看護ステーション(承諾事業者)は実地研修を承諾する場合、承諾書を依頼事業者に交付します。
(依頼・承諾書はともに2部作成し、それぞれが保管することになっています)
※実地研修に要する経費(指導料)については、所属するサービス事業者(依頼事業者)または登録研修機関等と協議の上決めておきます。
2 都道府県担当課へ実地研修受講申出書等の提出
所属するサービス事業者等(依頼事業者)が実地研修実施(実地研修開始の1週間前)前までに都道府県所轄課へ必要書類を提出し、担当課より実地研修の許可をもらいます。
- 実地研修受講申出書
- 受講生の認定特定行為業務従事者認定証の写及び基本研修修了書または基本研修受講証明書の原本
- 指導看護師の指導者講習会等修了証の写
3 研修日程調整をおこなう
研修期間は修了認定に要する日数とし、日程は指導看護師と実地研修を受講しようとする介護職員(受講生)と日程調整を行います。
原則として、指導看護師が対象となる利用者宅に訪問する際に受講生が同行して特定行為に係る実地研修を実施、指導をします。
4 研修に係る利用者の同意と医師の指示
- 同意書により同意を得る
所属するサービス事業者等(依頼事業者)は、実地研修を実施する前に、実地研修の対象となる利用者または家族等の代理人へ実地研修の説明を行い、同意書により同意を得ます。(介護職員等によるたんの吸引等の研修事業実地研修に係る同意書)
- 医師の指示書
利用者のかかりつけ医に実地研修を行う旨を説明し、実地研修の実施について指示書により指示を受けます。( 実地研修の実施に係る指示書 )
実地研修の実地に係る指示書の文書料は所属するサービス事業者等(依頼事業者)が支払うことになっています。
指示書は依頼を受けた訪問看護ステーション(承諾事業者)が原本を保管します。
所属するサービス事業者等(依頼事業者)はコピーを提出します。
実地研修の内容については医師の指示書に記載された内容以外は、実地研修として認められませんので必ず確認してください。
5 実地研修実施票及び評価票の様式
実地研修実施票及び評価票については、所属するサービス事業者等(依頼事業者)が準備します。(第3号実地研修評価票)
6 実地研修の実施
受講対象者の確認
依頼を受けた訪問看護ステーション(承諾事業者)は実施開始前に介護職員等が受講対象者であるかを確認します。
介護職員実務者研修修了者は受講対象外ですので、注意してください。
(1) 経過措置対象者
(2) 基本研修を修了または第三号認定証の交付を受けた者
基本研修の演習修了の確認
受講生は、実地研修開始前に対象となる利用者宅等で実際に利用者が使用している物品・機器を使用して評価票に基づいて受講生が安全に実施できることを確認します。
可能であれば口頭で質問し、実際の物品等を使用し手技のシミュレーションを行います。
指導看護師は、安全に実施できることを確認できれば実地研修実施票の所定の欄に記名捺印を行います。(実地研修開始日と同日でも可)
現場演習で評価票の演習修了の確認(全項目が「ア」となること)後に実地研修1回目に進むこと( 現場演習・実地研修評価票 手技ごとに1枚ずつ)
実地研修の評価
指導看護師が評価項目の全項目について、連続2回「手順どおりに実施できる」と評価した場合に実地研修が終了となります。
指導看護師による評価(所定の判断基準)により問題ないと判断されるまで実施します。
評価を行う際には、利用者の意見を聴取することが可能な場合は、利用者の意見を踏まえた上で評価を実施(第3号実地研修評価票・実施票 手技ごとに1枚ずつ)
指導者記入欄には、「手順通りにできた」「特になし」は評価審査できないため具体的な内容を記載
事故等があった場合の取扱い
実地研修中に事故があった場合
受講生は指導看護師の指示にしたがい、その場で利用者の安全確保を第一に努めます。
受講生はヒヤリハット・アクシデント報告書を記入し、指導看護師へ提出します。
提出を受けた指導看護師は、受講生に必要な指導を行います。
(ヒヤリハット・アクシデント報告書)
事故等が生じた場合、その責任は依頼業者が負うことになっています。
7 実地研修日終了後
医師の指示書(原本)は訪問看護事業所が保管し、コピーを渡します。
評価票(原本)・実施票(原本)・ヒヤリハット報告書(原本)を受講者に渡します。
あらかじめ協議の上決めた経費(指導料)を、指定口座へ受け取ります。
8 実地研修の修了認定
登録研修機関の審査が終了後、実地研修修了証が交付され、認定特定行為業務従事者認定証の交付申請及び認定特定行為事業者の登録手続きを行うことができます。(約1ヶ月くらい要します)
まとめ
- 実地研修前に依頼承諾書を2部作成し、それぞれが保管する
- 実地研修にかかる費用(指導料)について、あらかじめ協議の上決めておく
- 介護職員等が受講対象者であるかを確認する
- 利用者宅で使用している物品・機器を使用して、口頭で質問等を行い、安全に基本演習を実施できることを確認する
- 評価項目の全項目について、連続2回「手順どおりに実施できる」と評価した場合に実地研修が終了となる
- 医師の指示書(原本)は、訪問看護事業所が保管する
- 事故等が生じた場合、その責任は所属するサービス事業者等(依頼事業者)が負うことになる
今回は、訪問看護の現場で多い、介護職員の喀痰吸引等(第3号研修 特定の者対象)についてお伝えしました。
訪問看護をおこなう中で、誰もが不安や疑問に思ったりすることを解決できるような記事の作成を心がけています。
この記事がみなさんの日々の業務に役立ってもらえると幸いです。