近年、罹患した著名人の報道で耳にするようになった「パーキンソン病」は、厚生労働省が定めた指定難病のひとつです。
運動症状の出現によって生活に支障をきたす神経変性疾患であり、国からの支援体制も設けられています。
パーキンソン病の患者数を見てみましょう。
- 10万人に100人~150人程度(1000人に1人~1.5人)
- 60歳以上では100人に約1人(10万人に1000人)
高齢者に多い疾患であるため、高齢化に伴い患者数は増加しています。
そのため、訪問看護の現場でもパーキンソン病の方に携わる機会は増えています。
在宅でのリハビリは、運動症状への対応が特に重要です。
私もパーキンソン病の方のリハビリに難渋しながらも、さまざまな介入をしています。
今回は、パーキンソン病の方に対する訪問看護のリハビリ内容を紹介します。
在宅生活を送るうえで重要なこと、注意することについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
パーキンソン病の運動症状とは?
パーキンソン病の運動症状は、一側の手や腕のふるえから始まり、こわばりや脱力感に変化していきながら、姿勢の崩れや歩行障害に進行していきます。
初期症状に気づきにくく、症状が出現した時期がわからない方が多いようです。
一般的に、治療開始から3~5年は、服薬治療によって症状のコントロールが可能です。
しかし進行していくと、以下のような症状が表れます。
- wearing-off現象:薬の効果が切れて出現する動きにくさ、足のふるえ、すくみ足など
- ジスキネジア:薬が効いている間、勝手に手足が動いてしまう症状
意図的に動かしたり止めたりできないため、精神的負担も大きいと考えられます。
パーキンソン病の4大徴候とは?
パーキンソン病の方には、発生初期から特徴的な運動症状である「4大徴候」が表れます。
4大徴候の種類と特徴は、以下のとおりです。
- 静止時振戦:安静時に認められる4~6回/秒ほどの頻度で、拇指と示指をすり合わせる動き。片方の腕や足がふるえ出す。
- 無動:素早い動きができず、足が出にくくなる(すくみ足)。ことばが出しにくくなったり、文字を書くと小さくなったりする(小字症)。
- 筋強剛:筋肉のこわばり、関節の動かしにくさが表れ、歯車のような動きになる。手足や頭部を他動的に動かすと、強い抵抗感がある。
- 姿勢反射障害:体が傾いたときにバランスがとりにくくなり、転倒しやすくなる。歩き出すと止まれなくなり、方向転換が苦手になる(突進歩行)。体幹の前傾と頚部の前屈が目立ち、姿勢の修正が困難になる。関節可動域制限や立ち直り反応の低下などが原因になる。立位に限らず、座位保持も困難な場合がある。
4大徴候によって日常生活に支障をきたす方は多く、特に困っている症状はすくみ足と姿勢反射障害と言われています。
これらは転倒や骨折を引き起こす要因と考えられており、治療薬のみで改善することが難しいため、身体のリハビリや在宅の環境設定が重要です。
パーキンソン病の方に対する訪問看護のリハビリ内容
パーキンソン病の方に対する訪問看護のリハビリ内容を紹介します。
転倒の危険性がある「すくみ足」と「姿勢反射障害」へのアプローチ方法を中心に見ていきましょう。
すくみ足へのアプローチ
すくみ足へのアプローチには、主に次のような方法があります。
- 靴型装具(補高)の使用による前方への荷重
- リズム開始法
- 視覚誘導法
- 環境調整
すくみ足へのアプローチをする際は、「いつ」「どのような環境で」足がすくんでしまうのかをまず知っておきましょう。
というのも、起きる条件によって日常生活の困難さやアプローチ方法が異なるからです。
- いつ起こるのか:歩き始め、二つのことを同時に行うとき、方向転換するとき、内服の数時間後など
- どのような環境で起こるのか:障害物がある場所、狭い場所など
- 上記以外:無意識下でも出現するかどうか
どういった条件ですくみ足が出るのかを、動きの観察により把握しましょう。
それでは、具体的なアプローチ方法を紹介します。
靴型装具(補高)の使用による前方への荷重
パーキンソン病の方は、特徴的な前傾姿勢をとります。
重心が踵寄り(後方)にあり足が出しにくいため、靴を補高して前方への荷重を促すことが重要です。
靴型装具は専門的な用具であるため、導入する際は福祉用具事業所の方や義肢装具士に相談するとよいでしょう。
リズム開始法
リズム開始法とは、「いちに、いちに」と声を出しながらその場で足踏みし、一歩目を意図的に踏み出すように促すことです。
足が出にくいと感じたタイミングで姿勢を伸展位に修正し、リズム開始法を始めます。
メトロノームや音楽を使ったり、介助者が数をカウントしたりして、リズミカルに聴覚刺激を与えると効果的です。
視覚誘導法
椅子やベッドなどの目的地に意識や視線を向けると、そのまま突進してすくみ足が出現する恐れがあります。
その際は、床にテープを貼ったり踏み越える目印(畳の縁など)を決めたりする「視覚誘導法」が有効です。
階段昇降や、一定間隔に置いたコーンの間のスラローム歩行などを行います。
平地を歩くよりも、段差や目印があることで、歩きやすくなることがあります。
環境調整
すくみ足を誘発する障害物を撤去しましょう。
在宅では家具や荷物が置かれ、動線の妨げになってしまうことがあるからです。
雑多な環境が原因ですくみ足が起きている場合は、一度片づけてみて歩行の変化を確認するとよいでしょう。
また、広い空間に支持物がない環境では、すくみ足が誘発されることがあります。
そのため、福祉用具や住宅改修による手すりの設置も、転倒予防に有効です。
環境調整には、他にも以下のような方法があります。
- 廊下に人感センサーの照明を設置する
- 小さな段差に気づけるように、カラーテープを貼って目立たせる
- レーザービーム付きのT字杖を使う
姿勢反射障害へのアプローチ
姿勢反射障害には、姿勢やバランスの改善を目的とした運動が行われます。
ここでは、主に「臥位姿勢」と「座位姿勢」でのプログラムを見ていきましょう。
姿勢改善~臥位編~
重力の影響を除去した環境で行うため、自立度の高い方から日常生活動作に制限をきたしている方まで、幅広く取り組めます。
臥位の運動では、仰臥位と伏臥位のプログラムを紹介します。
具体的な内容を見ていきましょう。
- おしりを上げる運動や、足を上げて空中自転車こぎの運動をする
- 膝をそろえて左右に倒す、ストレッチポールを使って腰背部をストレッチする
脊柱や股関節のこわばりを改善することが目的です。
私はよくストレッチポールを使うのですが、半円型のタイプは安定しているため、転落の危険性も少なくおすすめです。
- 伏臥位姿勢になる練習をする
- 伏臥位姿勢を保持する
寝返りの練習、脊柱の伸張、股関節・膝関節の拘縮予防などが目的です。
伏臥位への体位変換は比較的難しいため、動作能力を確認してから実施しましょう。
姿勢保持は、クッションをお腹の下に入れると楽にできる場合があります。
姿勢改善~座位編〜
前傾姿勢や姿勢の崩れによって起こる脊柱の可動域制限、筋の柔軟性低下などに対する運動です。
具体的な内容と手順を見ていきましょう。
- 背中にボールを当て、背筋を伸ばしながら上肢を挙上する
- 背筋が伸びている感じを確認したら上肢を下ろす
- 「姿勢が片側に偏っていないか」「座面が柔らかく沈み込んでいないか」などを確認する
- 良い姿勢で座り、左右に体を回旋させる(棒を使うのも有効)
実施にあたり、座位バランスが不良の方には肘掛けがついた椅子を使いましょう。
また、痛みが出ない範囲で行ってください。
まとめ
今回は、パーキンソン病の方に対する訪問看護のリハビリ内容を紹介しました。
パーキンソン病の方には特徴的な運動症状が見られ、転倒して骨折すれば、寝たきりや状態悪化に繋がる危険性があります。
そのため、訪問看護でのリハビリは早期から多職種で関わることが重要です。
疾患の進行状況に応じたプログラムや環境設定なども見直しながら、利用者さんや家族を包括的に支援していきましょう。
本記事が、パーキンソン病の在宅生活支援の役に立てば幸いです。