訪問看護師さんの中で、このような疑問をもったことはないでしょうか。
近年の高齢化に伴い、足に起こるトラブルは増えてきており、最近では「フットケア」という言葉をよく耳にすると思います。
2008年より診療報酬で糖尿病合併症管理料が認められたこともあって、病院でもフットケア外来の開設が進められています。
訪問看護の現場でも、足の爪や足の皮膚トラブルなどで悩まれている利用者さんに遭遇することが多いのではないでしょうか。
今後もきっとフットケアの需要は大きくなっていくと思います。
足は「第二の心臓」とも言われており、足や爪は人間の身体を支えるという役割をもっていますので、足のトラブルは下肢機能を低下させ転倒のリスクを高めたり、歩行障害や活動量減少を招き、ストレスにもなり、後々利用者さんの全身にも悪影響を及ぼす可能性もあります。
フットケアを通じて、在宅で過ごされる利用者さんのADLの改善やQOLの向上につなげることができるよう、訪問看護で行うフットケアのポイントについて解説していきますので、訪問看護の場で参考にしていただければ幸いです。
目次
訪問看護で行うフットケア
フットケアとは、巻き爪や陥入爪などの爪トラブルや、胼胝(タコ)や鶏眼(ウオノメ)などの皮膚トラブルなどの足に起こるトラブルを改善・予防するためのケアのことです。
フットケアは、爪切りだけではなく、足の状態を観察することや足の清潔保持や保湿することも含まれます。
足のトラブルとは、巻き爪、陥入爪、肥厚爪、爪白癬などの爪の異常や、胼胝、鶏眼などの皮膚の異常、外反母趾などの関節の変形や足のしびれや疼痛、浮腫などであり、足病変といわれます。
日本フットケア・足病医学会では、足病変の定義をこのように記しています。
引用)日本フットケア・足病医学会より
「起立・歩行に影響する下肢・足の形態的、機能的障害(循環障害、神経障害)や感染とそれに付随する足病変に加え、日常生活を脅かす非健康的な管理されていない下肢・足を足病変と定義する」
足のトラブルである足病変は以下のように主に3つに分けられます。
- 爪の病変(巻き爪、陥入爪、肥厚爪、爪白癬など)
- 皮膚の病変(胼胝、鶏眼、白癬など)
- 関節変形による病変(外反母趾、内反小趾、偏平足など)
特に糖尿病の方は、痛みや感覚が鈍くなるなどの神経障害や、血流障害によって傷が治りにくくなったり、免疫力の低下により細菌感染が起こりやすくなるなど足にトラブルを抱えやすくなりますので、特に注意が必要です。
重症になると足を切断しなければならない場合もあります。
足をケアする、つまりフットケアすることで足病変の改善や予防につながるのです。
高齢者の半数以上が足になんらかのトラブルを抱えているといわれており、私が出会った在宅の利用者さんや施設入居中の利用者さん、デイサービス利用者さんの足を見てみても、6割以上の利用者さんが足になんらかのトラブルを抱えておられます。
訪問看護の現場で利用者さんが足のトラブルで困っている場合は、医師やケアマネジャーに相談し、指示書やケアプランに加えてもらうと保険上で介入できる場合もありますし、ステーションによっては自費で介入されているところもありますので、検討してみることもよいでしょう。
フットケアの種類
フットケアの種類は次のようなものがあります。
- 爪のケア(巻き爪、陥入爪、肥厚爪、白癬爪)
- 胼胝(タコ)・鶏眼(ウオノメ)のケア
- 角質のケア
- 亀裂(ひび割れ)のケア
- 足のスキンケア
- 足のマッサージ
胼胝と鶏眼についての定義は以下のようになります。
引用)南山堂医学大辞典より
胼胝(タコ)とは?
結合〔組〕織の著しい増殖を伴った肉芽組織の瘢痕形成に膠原線維の硝子変性が加わって硬くなった状態をいう。これには胸膜胼胝、心膜胼胝、心筋胼胝などがある。胸膜や心外膜にみられる結合組織性の肥厚が高度になり、陳旧性になったものはSchwarteという。胸膜や心嚢の滲出物が器質化したもので、一つの炎症性産物である。同じく胼胝といわれるものにSchwieleがあり、心筋胼胝Herzschwieleのように瘢痕性結合組織増殖を意味することもあれば、皮膚胼胝Hautschwieleのように機械的刺激によってその部の組織が単に肥厚し、硬くなった状態もある。俗に「たこ」ともいわれている。鶏眼(ウオノメ)とは?
胼胝のうち、肥厚した角質が半透明の円錐を形成し、靴などの圧迫により神経末端を刺激し、疼痛を伴うものをいう。皮膚直下に骨の突出部がある部(第4,5趾が互いにあたる部など)に好発しやすい。老齢者の趾(足の指)に多く、とくに第4,5趾が互いに接触する部に好発する。この場合、角質がしばしば浸軟しているため、足白癬と紛らわしいこともある。糖尿病患者などでは当該部に感染を起こしやすいので注意を要する。足底にできる鶏眼はときに足底疣贅と紛らわしいが、足底疣贅と異なり、外的機械的刺激部にできやすく、多発するよりむしろ単発性で、表面には皮紋、皮膚が残存し、側方圧迫より上方圧迫の方が疼痛が強く、削ると疣贅のように点状出血は認めず、半透明の角質円錐を認める。〔治療〕 原因となる圧迫をとり除くのが最善だが、サリチル酸硬膏が対症的に用いられる。その他、外科的に骨を削ったり、骨と皮膚の間にシリコン注入し、クッションとする方法もある。
難しい・・・。
要は、胼胝(タコ)は圧迫や摩擦が繰り返してがかかることが原因で角質が厚くなり、局所的に盛り上がってできたもので、鶏眼(ウオノメ)も原因は胼胝と同じですが、中心に角質がより固く厚くなったくさび型の「芯」があるのが特徴的で、タコの場合は芯はありません。
下の図は胼胝や鶏眼ができやすい部位を示しています。
フットケアの効果
フットケアには次のような効果があります。
- 足の循環改善
- 足のトラブル改善
- 歩行バランスの改善
- 下肢筋力・身体機能の改善
- 活動性の向上
- 転倒不安の軽減
など
フットケアは足のトラブルを解決するだけでなく、痛みが軽減したり、足の拇趾に力が入るようになることで立位のバランスが改善したり、歩行機能の維持や向上につながるため、介護予防や要介護の進行予防にもなります。
フットケア9つのポイント
ポイント①:アセスメント
フットケアは、まず足の状態をよく観察し、アセスメントすることが重要です。
診療報酬では糖尿病の方のフットケアが認められていますが、糖尿病の方以外にも足のトラブルを抱えている方は多くいらっしゃいますので、利用者さんの足をよく観察してみましょう。
アセスメントのポイントは、次のようなものになります。
- 胼胝(タコ)や鶏眼(ウオノメ)、傷の有無
- 足の爪の状態、巻き爪や陥入爪などの異常の有無
- 皮膚の乾燥や角化、白癬の有無
- 足全体および足趾の変形の有無
- 浮腫の有無
- 足の皮膚温や皮膚色の観察
- 足の動脈(足背・後脛骨・膝窩・大腿)の触診
- 足の関節の可動域の確認(足関節・足趾関節)
- 普段使用している靴の観察
などがあります。
ポイント②:足浴で血行を促す
40℃くらいの温度で10~15分程度の足浴を行い、血行を促進しましょう。
足浴には次のような良い効果があります。
- 足の清潔保持
- 足の疲れを緩和
- 足先まで血流循環を良くし、全身の血行を良くする
- リラックス効果、ストレスの緩和、鎮痛効果
- コミュニケーションの場作り
- 足の機能訓練
など
足は身体の末端であり、血流が滞りやすいという特徴がありますので、足浴を行うことで足を温め全身の血行もよくなり、循環機能を高めます。血行が良くなると、老廃物の排泄がスムーズになり、浮腫の改善にもなります。
上記のような様々な効果がありますので、足にトラブルがある利用者さんには足浴は積極的に行っていきたいですね!
ポイント②:足の清潔を保つ
足を清潔に保つことは、足病変の大きな予防になります。
石けんをしっかり泡立てて使用し、できれば歯ブラシも使い足の爪周りの汚れや角質をしっかり洗い流します。足の指一本一本、指の間まで、丁寧にきちんと洗いましょう。
ベッド上でしかできない場合は、ビニール袋の中に泡石鹸を作り、足を洗う方法もあります。
足を洗った後は、水分をしっかり拭き取りましょう!
足が触れている状態で靴下や靴を履いてしまうと細菌感染しやすくなりますので、水分の拭き残しがないようにしましょう。
ポイント④:足や爪の保湿ケアをする
足が乾燥してしまうと亀裂(ひび割れ)を起こしてしまい、細菌感染してしまう可能性もあります。
入浴後や足浴後は、肌が湿っている状態で保湿ケアを行います。
保湿剤はワセリンや尿素入りの保湿剤がおすすめです。ワセリンはそのままだと伸びにくいので、手のひらで擦り温めておくとなじみやすくなりますよ。
細菌感染予防のために足趾間はあまりベタベタ塗らないようにしましょう。
長時間の入浴や熱い温度での入浴は、逆に乾燥を引き起こしてしまいますので、適度な時間・温度で行いましょう。
ポイント⑤:爪を正しく切る
爪を切るときの理想の長さは、皮膚から爪が出ない程度の長さでスクエアカットという四角い形です。
出典)マルホ株式会社 皮膚科学領域での卓越した貢献を (maruho.co.jp)
足の爪には、次のような大切な役割があります。
- 指を保護する
- 指の触覚を鋭くする
- 体を支え安定させる
- 歩行時に指先に力を入れる
足の爪は立位や歩行に欠かせない重要なものであるため、小さくても大切なものなのです。
爪の切り方については、以下の記事で詳しく解説していますので良ければ参考にしてください。
ポイント⑥:胼胝、鶏眼は適切なケアをする
一般的にいわれるタコとは医療用語では胼胝(べんち)といい、ウオノメのことを鶏眼(けいがん)といいます。
まずは足の観察を行い、胼胝や鶏眼がどの部位にどの程度できているのかを確認します。
ケアに使用するのは、コーンカッターやグラインダー、やすり(紙、電動、レデューサー)、芯を取るための先端がスコップ型をしている器具などがあります。
胼胝の厚さがある場合は1回で削らずに、数回に分けて徐々に削るようにしましょう。鶏眼のケアは、芯の部分をスコップ型の器具を使用し、掻き出すようにして取ります。
出血させないようにケアするのが原則です。
鶏眼と似ているものに疣贅(ゆうぜい)と呼ばれるイボがあります。イボは血管の点々が見えるのが特徴ですが、間違って削ってしまい出血すると他の部位に転移してしまう可能性がありますので、イボの場合は病院へ受診することをおすすめします。
ポイント⑦:足のマッサージや関節ストレッチをしよう
足のマッサージには様々な効果がありますので、是非行いましょう。
- 血液循環やリンパの流れを促す
- 筋肉の緊張を解き柔らかくさせる
- 関節の可動域を広げる
- 保湿効果を高める
- リラックス効果、ストレス緩和
- しびれの症状緩和、鎮痛効果
- コミュニケーションの場作り
足のマッサージは、入浴後や足浴後に保湿ケアをしながら、足のふくらはぎ・足首・足の裏・足の指を手のひらで優しくさすったり、筋肉や腱、リンパ節を心地よい程度に押したり揉んだりしましょう。
ポイント⑧:利用者さんに合った靴を選ぶ
合わない靴を履くと胼胝(タコ)や鶏眼(ウオノメ)、外反母趾など足病変のできる原因になります。
足は体全体の体重を支えたり、体のバランスを保ったり、地面からの衝撃を和らげたりしますので、このような足の機能を十分に発揮できる靴を選ぶことが大事です。
靴の正しい選び方は次のようになりますので、参考にしてみてください。
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まとめ
今回は、「訪問看護で行うフットケア9つのポイント」についてお伝えしました。
昨今、地域包括ケアが推進されるようになり、在宅医療や介護サービスを受けながらご自宅で過ごされる方が増えてきました。今までは、病院などの医療機関でフットケアを受けることが多かったと思いますが、近年は様々な職種が在宅でフットケアを行うようになってきています。
フットケアに関する研修も様々なところで開催されていますので、機会があれば受けてみるのもよいでしょう。
足のトラブルである足病変を早期発見、早期治療することは利用者さんの足を守る上で重要です。利用者さんに豊かに健康な生活を送っていただけるよう、訪問看護師はフットケアにも是非目を向けていきたいですね!