筋ジストロフィーは、進行性の筋力低下を特徴とする神経筋疾患であり、治療が難しく、長期にわたる療養生活が必要となるケースが多くあります。
なかでも在宅療養を選択する利用者さんにとって、訪問看護師の存在は、日々の生活を支える大きな柱です。
この記事では、在宅で暮らす筋ジストロフィー利用者さんのよくある課題と、それに対する訪問看護の支援内容や関わり方についてご紹介いたします。
「その人らしい生活」を支えるヒントとして、日々の看護に活かしていただければ幸いです。
目次
筋ジストロフィー利用者さんの在宅生活の課題
在宅で生活する筋ジストロフィー利用者さんは、進行性の筋力低下により、日常生活のさまざまな場面で困難を抱えています。
訪問看護師として関わっていく中で、たくさんの課題が見られます。
呼吸障害
筋ジストロフィーでは進行していくにつれて横隔膜や呼吸補助筋が徐々に低下していきます。
進行に伴い、換気障害や喀痰排出困難が進行し、肺炎やCO2ナルコーシスのリスクが高まります。
多くの利用者さんは、在宅での人工呼吸器の管理が必要となり、呼吸器トラブルへの即時対応や、日常的な観察が欠かせません。
嚥下障害と栄養管理
疾患が進行するにつれて、嚥下障害が見られ、誤嚥による肺炎や栄養不良のリスクが高まります。
利用者さんに合わせた食事形態や摂取方法・ポジショニングの検討の援助が必要となります。
また、必要に応じて経管栄養や胃瘻の導入を含めた多職種連携が求められます。
日常生活援助
筋力低下により移動・排泄・入浴・更衣などADLの多くが介助を要するようになり、介護量の増加によって家族の身体的・精神的負担が大きくなるケースもあります。
さらに、四肢の筋力低下に伴い、残存機能に応じた代替手段の選定と訓練も重要なケアの一つです。
これらの課題に対して、訪問看護師は医療的ケアを担うだけでなく、家族の支援者としての役割も求められることを念頭に置く必要があります。
訪問看護師の役割とかかわり
医学的な観察と早期対応
呼吸状態、喀痰量、体位、皮膚トラブル、食事摂取状況など、全身状態を細かく観察し、小さな変化を見逃さないことが重要です。
とくに在宅人工呼吸器の管理をしている場合は、フィルターの交換や装着状況、機器の作動確認、バッテリー残量のチェックなど、安全管理の視点が必要不可欠です。
家族との信頼関係の構築
筋ジストロフィーは長期にわたって進行する病気であるため、家族の不安や疲労は計り知れません。
看護師が訪問のたびに、ただ観察するだけでなく、「最近心配なことはありますか?」「夜間の様子はいかがですか?」といった共感的な声かけを心がけることで、家族の安心感を支えることができます。
多職種連携
訪問看護師は、筋ジストロフィー利用者さんの在宅療養生活におけるキーパーソン的存在であり、主治医、リハビリスタッフ、ケアマネジャー、福祉用具業者などとの調整役を担っています。
多職種でより統一したケアを行っていくために、利用者さんの必要な情報を共有する重要な役割があります。
疾患進行に応じたケアの調整方法
筋ジストロフィーは進行性の疾患であり、病状の段階に応じてケア内容を柔軟に変化させる必要があります。
- 筋力の低下は軽度で、日常生活の自立が可能な場合もあります。
- 関節拘縮予防のストレッチ、呼吸訓練など予防的なケアが中心となります。
- 筋力低下が進み、ADL支援と生活環境の調整が重要となります。
- リフトの導入や介助方法の見直し、環境整備を多職種と連携しながら進めていくことが必要です。
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症状緩和と精神的サポートが中心になります。
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呼吸困難感の緩和、疼痛や不安への対応、そして患者・家族の意思を尊重したケアを行うことが求められます。
いずれの段階においても、「できることを続ける」視点でケアを考え、利用者さんの自尊心を保ち、QOLを維持する姿勢が訪問看護師には求められます。
利用者さんと家族のQOLを支える支援
筋ジストロフィー利用者さんの在宅療養では、身体的なサポートだけでなく、心理的・社会的な支援も欠かせません。
進行性の疾患であるため、利用者さんが将来に悲観的になることもみられます。
その際に訪問看護師は、利用者さんの気持ちを傾聴し、寄り添うことも必要となります。
また、家族に対しても、「完璧でなくていい」「疲れて当然です」といった言葉で、頑張りすぎを認める関わりが心の支えになります。
必要に応じて福祉制度や補助制度の適切な情報提供を行うことも、訪問看護師の大切な支援の一つです。
まとめ
筋ジストロフィーという難病を抱えて在宅で暮らす利用者さんと家族にとって、訪問看護師は単なる医療職ではなく、生活と心を支える存在です。
疾患の進行に伴いケアの内容や関わり方は変化しますが、どの段階でも変わらず大切なのは、その人らしさを尊重したケアです。
病気と向き合う不安、介護に対する戸惑い、日常の小さな喜び、それらすべてに寄り添える看護を、訪問の中で築いていきましょう。