訪問看護を行う上で、利用者さんだけでなく家族への支援も必要な場合が多々あります。
特に、精神科訪問看護の家族支援は診療報酬として認められており、精神障害のある利用者さんを支えている家族は、様々な要因で心身共に疲弊しがちです。
利用者さんと家族は、切っても切り離せないお互いに影響しあう近しい関係性です。
家族に元気がもどることで、利用者さんの回復に繋がっていきます。
今回は、精神科訪問看護での家族支援で大切にしたいことを具体的に説明していきます。
目次
精神障害のある利用者さんを支えるご家族の心理背景
まず、精神障害のある利用者さんを支えている家族が陥りがちな悩みについて触れていきましょう。
恥の文化
精神疾患は「現代病」と言われ、誰でも発症する可能性のある病気であり、患者数は年々増加しています。
精神科・心療内科は比較的気軽に受診出来るようになり、偏見も少なくなってきました。
しかし、これまでは「精神疾患は社会の役に立たない」「家族の恥である」と考えられ対象を閉じ込め、存在を隠してしまうことが多くありました。
今でもその価値観が完全に払しょくされたとは言い難く、他人に言いづらい雰囲気は残っています。
自己責任
精神障害は脳の機能的器質的疾患ですが、本人の弱さや甘えから引き起こすものであると考える方が少なくありません。
また、甘やかしてしまった、ちゃんとサポートしてあげられなかったからなど、接し方が悪かったから引き起こしてしまったのだと自分を責めてしまう家族も少なくありません。
そうなってしまうと、人に相談すること自体が「甘え」だと考えてしまい、自分達だけでなんとか解決しようとして抱え込みがちになってしまいます。
親戚やご近所の理解が得られず、孤立状態に陥ることも珍しくありません。
対応方法が分からず、疲労困憊
精神疾患の病態や一般的な対応方法は、インターネットでも普及しており情報としては得やすいです。
しかし、利用者さんの状態は、それまで培ってきた人生や歴史、家族との関係性が大きく影響しているので画一的な対応では不十分です。
そして、大声を出す、暴力や暴言がある、介入を拒む、利用者さんに病識がない、など非常に対応が難しい場合、限界を感じる家族もいるでしょう。
家族という近しい関係にあるからこそ、感情が揺さぶられ、腹立たしさを感じる瞬間も多いでしょう。
利用者さんを責めてしまうこともあるかも知れません。
それが、いつまで続くのか先が見えず、身体的心理的に疲れてしまいます。
長期的なので、金銭面や将来が不安
金銭面ですと、大黒柱の夫が働けず収入がない状態が続いていたとします。
今後働けるようになるだろうか?将来どうなってしまうのだろうか?
家族としてケアを続けたいのに、現実的に難しい状況に立たされてしまうことがあります。
例えば、子どもが精神疾患で働けず、家族(親)の年金で暮らしている状態が続いていたとします。
親が亡くなった後はどうなるのか?
また、先ほど少し触れましたが、精神疾患は長期にわたり多種多様なサポートが必要です。
いつまでサポートを続けないといけないのか、改善する見込みはあるのだろうか?
自分の人生を犠牲にしないといけないのか?
先の見えない迷路に立っている心境に陥ってしまいます。
精神科訪問看護の家族支援の内容
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
これまで、家族が陥りがちな心理的背景について述べてきました。
それを踏まえ、具体的にどのように支援を行っていくかを説明していきます。
家族との面談
支援者側としては、面談を通して利用者さんと家族双方の様々な情報を得ることができます。
対象の理解を深めることが出来、より効果的な支援に繋がる絶好の機会です。
面談が出来ない、したくないと言われる家族の場合、その方々は計り知れない苦悩、思いがあるのだと推測します。
支援者と話すこということは、家族の心理背景から想像する通り、とてもハードルが高いものです。
決して無理強いはせず、待つ姿勢を心がけて下さい。
思いを吐き出してもらう
家族と支援者で話す機会を設けます。
初めはとても緊張され、何を話していいのか分からない家族も少なくないので、特性に合わせつつ慎重に面談を進めていきます。
今持っている陰性感情、利用者さんや家族の人生史など、利用者さん本人の前では話しにくいことも是非教えてほしい、とストレートに伝えるのも効果的だと考えます。
家族が思いを吐露することを大切にし、支援者は、家族のこれまでの苦労へのいたわりを込め、聴くことに徹していきます。
家族が間違った理解をしていて疾患教育が必要であると感じても、最初からその対応をすることは悪手です。
当たり前のことですが、この面談を受けること自体、家族は利用者さん本人と向き合おうとしている表れなのです。
信頼関係がない状態で「この病気は、○○の対応をすべきです」と指導してしまうと家族はより疲弊してしまいます。
面談に参加して下さったことに感謝の思いを伝え、これまでの努力を称賛し労うことが重要です。
症状への対応方法や、利用者の心理の理解を促す
人生史や普段の状況の聞き取りを経て、より利用者さんに合った対応方法を理解してもらいます。
家族が問題行動だと捉えていたことは、実はほとんど利用者さんのSOSです。
簡単に言うと、精神疾患を抱える利用者さんは、辛さを分かりやすく伝えられない、表現できないことが多いのです。
利用者さんの言動の背景にある心理状態を理解することで、接し方・態度・関係性の見直しに繋がります。
また、今まで効果的でない対応をしていたとしても、面談は家族が反省や後悔をする場所ではなく、これから十分取り戻せることを強調して伝えます。
家族自身が成長することにより利用者さんの成長も期待でき、より良い関係性へと変化していきます。
家族に利用者さんの症状や心理の理解を促す方法としては、みんなで話し合う機会を設けることがとても有効です。
支援者は両者の思いや考えを知った上で面談を行う方がよいでしょう。
手法としては、支援者は情報整理を中心とした役割を担い、両者の対話を促します。
支援者は代弁は行わず自身で語ってもらうこと、支援者は一方に肩入れせず中立の立場でいること、平等に発言の機会を設けること、を意識して、調整役になります。
また、この場は問題を解決させることが目的ではなく、対話をしたという事実が重要です。
何回でも、粘り強く行っていく必要があります。
そして、対話の繰り返しが行動変容に繋がる動機付けになり、両者とも主体的に変わろうとする力を得ることが出来るのです。
家族は、「かまってほしいからやっている」「死なないのに大騒ぎしている」と考えて徐々に距離を置いて接していました。過度に心配する様子を見せてしまうと、より自傷行為を繰り返すと判断してのことでした。
Aさんはストレス耐性が低く、物事の処理がゆっくりな人でした。リストカットをしてしまう理由として、「自分は馬鹿なので、皆に迷惑をかけてしまうから」「リストカットだと自分だけしか迷惑がかからないから楽でいい」「疲れた時はこうするしかない」と話されました。
Aさんは、他人を気遣う気持ちと自己犠牲でリストカットをしており、サラリーマンが「疲れた時にコーヒーを飲んで休憩する」という感覚でリストカットをしていたのです。
Aさん、家族、支援者で定期的に面談の機会を設け、思いのズレを表に出してお互いに知っていく作業を繰り返しました。
その後、家族は「疲れた時のAさんの避難場所」を作ってくれました。Aさんは、疲れに気付いて休もうと自身で判断することは難しいので、ストレスへの対処を一緒に考える機会も積極的に作ってくれました。
家族の行動が変化したことでAさんは安心でき、その後リストカットは減りました。
社会資源の紹介
精神疾患のある利用者さんが利用できる社会資源は増加してきています。
在宅サービスを調整する相談支援員、ヘルパー、訪問看護だけでなく、就労支援事業所や作業所、障害者枠雇用、デイケア等様々あります。
医師や役所の障害保健福祉課と連携し情報をお伝えすること、利用するタイミングを一緒に考えることが将来への安心に繋がります。
以下を是非ご参考下さい。
精神障害のある方を支える福祉サービスと経済的支援 | 全国地域生活支援機構 (jlsa-net.jp)
また、家族会は、精神疾患のある利用者さんを支える家族たちが、お互いに同じ立場で話して支え合う会です。
同じ家族目線での情報交換は、役立つことが多いです。
悩んでいるのは自分達だけではないことを感じる場があることで、安心感や元気がもらえます。
精神科訪問看護における家族支援|寄り添う気持ちを大切に
家族の形やそれぞれの関係性は多様であり、長い歴史で培われてきたものです。
話を聞かせて頂く中で、「それはおかしいのでは?」と違和感があるかもしれません。
違いがあって当たり前なのであり、自分の価値観と一致しないことでも受け入れながら援助を行っていきましょう。
お時間があれば、是非「自己覚知」についても深めてみて下さい。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
精神科訪問看護の家族支援ってどのようにすればいいのでしょう?難しくて悩んでいます。