「個人目標を立ててください」と言われても、結局は他の看護師の目標を真似したり、「業務に慣れる」といった具体的な行動につながらない目標を書いてしまったり——そんな経験はないでしょうか。目標が形だけのものになってしまうと、面談のたびに書き直すだけの負担が増え、日々の仕事のやりがいにもつながりません。
訪問看護で意味のある個人目標を立てるコツは、「なぜその目標を達成したいのか」という内側の動機(欲望)から出発することです。この記事では、獲得・絆・理解・防御という4つの欲望を軸に、訪問看護師ならではの具体例とともに目標の立て方を解説します。
- 個人目標が形だけになってしまう理由
- 4つの欲望(獲得・絆・理解・防御)から目標を考える方法
- 訪問看護師ならではの具体的な目標例
- 目標を行動に落とし込むためのSMART原則の使い方
目次
意味のある個人目標が立てられない理由
個人目標の作成にありがちな失敗は、次の2つです。
- 他の看護師の目標をそのまま真似てしまう
- 「頑張る」「気をつける」など、具体的な行動につながらない目標を立ててしまう
これらの目標は、面談担当者を満足させるための「体裁」になりがちで、自分自身の行動を変える力を持ちません。目標が機能するかどうかを分けるのは、その目標が自分の内側にある「望み」に結びついているかどうかです。

「スキルアップする」だけの目標だと、半年後に振り返っても何をどれだけ頑張ったのか分からなくなりがちです。まずは自分が何を望んでいるのかを見つめ直すところから始めるのがおすすめですよ。
個人目標のもとになる「4つの欲望」とは
心理学やマーケティングの分野では、人の行動の背景にある欲求をいくつかの型に整理して説明する考え方が知られています。ここでは、訪問看護師の個人目標を考えるうえで扱いやすい4つの欲望——獲得への欲望・絆への欲望・理解への欲望・防御への欲望——を軸に整理します。それぞれの看護師が大事にしたい欲望を出発点にすることで、他人の目標を真似るのではなく、自分自身の言葉で目標を語れるようになります。

獲得への欲望|地位や資格を得たい
「権威性や社会的地位を獲得したい」という望みです。たとえば次のような望みが当てはまります。
- 訪問看護事業所の所長やエリアマネージャーになりたい
- 認定看護師・ケアマネジャー・呼吸療法認定士などの資格を取得したい
この望みから考えられる個人目標の例は、以下のとおりです。
| 望み | 個人目標の例 |
|---|---|
| 所長になりたい | 契約・スケジュール調整などの管理業務を、今期中に1つ以上任せてもらえるようになる |
| 認知症看護認定看護師を目指す | 行動心理症状の緩和・予防に関する知識を深め、半年以内に事業所内勉強会を1回開催する |
ポイントは、「なりたい姿」に向かうための具体的な行動と期限まで決めることです。
絆への欲望|信頼され、頼られたい
「個人や集団と仲良くなりたい」「頼られたい」という望みです。
- 尊敬する看護師のような考え方・振る舞いができるようになりたい
- 介護者(家族)の良き相談相手になりたい
| 望み | 個人目標の例 |
|---|---|
| 尊敬する看護師のようになりたい | 利用者さんとの会話の中から体調の変化や困りごとをアセスメントできるようになる |
| 介護者の良き相談相手になりたい | 介護者を支援するための説明・相談マニュアルを今期中に1つ作成する |
利用者さんや家族との信頼関係が築けると、仕事への充実感も自然と高まります。
理解への欲望|知りたい、深めたい
「好奇心を満たしたい」「答えを見つけ出したい」という望みです。
- 看取りを経験したい
- 認知症の利用者さんとの関わり方を知りたい
| 望み | 個人目標の例 |
|---|---|
| 看取りを経験したい | 緩和ケアについて学び、自宅で最期を迎えたい方への関わりの中で実践する |
| 認知症の方への関わり方を知りたい | 認知症のステージごとの生活障害に応じたケアの視点を学び、次の担当ケースで実践する |
学びを深める目標は、より良いケアの提供につながるだけでなく、自分自身の成長も実感しやすいという利点があります。
防御への欲望|大切なものを守りたい
「自分の大切なものを守りたい」という望みです。
- ワークライフバランスを充実させたい
- 体調を崩さずに働き続けたい
| 望み | 個人目標の例 |
|---|---|
| ワークライフバランスを充実させたい | 計画書・報告書の作成を毎月20日から始め、業務時間内に終わらせる |
| 体調を崩さずに働きたい | 悩みを溜め込まず早めに相談する、疲労・ストレスを溜めないよう計画的に休暇を取る |
心身の健康を守るための目標は、後ろ向きなものではなく、長く働き続けるための土台として大切な視点です。

目標を行動に落とし込む|SMART原則の使い方
4つの欲望から「なりたい姿」が見えてきたら、それを実際に行動できる目標に落とし込みます。ここで役立つのが、目標設定の基本的な考え方であるSMART原則です。
- S(Specific):具体的か(「スキルアップする」ではなく「褥瘡の観察・記録ができるようになる」など)
- M(Measurable):達成度を測れるか(「勉強会を1回開催する」など回数・件数で測れる形にする)
- A(Achievable):現実的に達成可能か
- R(Relevant):自分の欲望・事業所の方針と関連しているか
- T(Time-bound):期限が決まっているか(「今期中に」「半年以内に」など)
4つの欲望は「なぜやりたいか」を明確にするためのもの、SMART原則は「どうやって・いつまでに」を明確にするためのものです。両方を組み合わせることで、実行力のある目標になります。

1つの目標に欲望を1つだけ結びつける必要はありません。「認定看護師になりたい(獲得)」と「利用者さんに信頼されたい(絆)」のように、複数の欲望が重なっている目標のほうが、むしろ長く続けやすいと感じます。
事業所の方針と個人目標をどうつなげるか
4つの欲望から自分の望みが見えてきても、それが事業所の方針とまったく噛み合っていなければ、上司からの理解や協力を得づらくなってしまいます。個人目標を立てる際は、次の順番で考えると事業所の方針との橋渡しがしやすくなります。
- 事業所の方針・重点課題を確認する今期、事業所として力を入れたいこと(新規利用者の受け入れ強化、看取り対応の強化、多職種連携の改善等)を面談前に確認しておく。
- 自分の欲望と重なる部分を探す事業所の重点課題の中に、自分の「獲得・絆・理解・防御」のいずれかの欲望と重なる要素がないかを探す。
- 重なる部分を具体的な行動目標に変換する例えば事業所が「看取り対応の強化」を掲げているなら、自分の「理解への欲望(看取りを経験したい)」と結びつけ、「緩和ケアについて学び、担当ケースで実践する」という個人目標に変換する。
このように事業所の方針と自分の欲望が重なる部分から目標を立てると、自分のためだけでなく事業所全体の成果にもつながる目標になり、上司からの後押しも得やすくなります。

事業所の方針と自分の欲望が全く重ならないときは、無理に一致させようとせず、まずは自分の欲望を大事にした目標を立てて構いません。長く続けられる目標であることのほうが優先度は高いと感じています。
目標を振り返るタイミングと方法
目標は立てるだけでなく、定期的に振り返ることで初めて機能します。振り返りの際は、次の3点を確認するとよいでしょう。
| 確認項目 | 振り返りの視点 |
|---|---|
| 達成度 | SMART原則で決めた基準(回数・期限)に対して、どこまで進んだか |
| 欲望との一致度 | 今も自分がその欲望を大事にしたいと感じているか、興味が変わっていないか |
| 次の行動 | 達成できていない場合、目標そのものを見直すか、行動を分解し直すか |
面談のタイミングだけでなく、月1回程度、自分自身で振り返る時間を持つと、目標が「立てて終わり」にならずに済みます。
目標が続かなくなったときの見直し方
目標を立てても、日々の業務に追われて意識が薄れてしまうことは誰にでもあります。そうしたときは、目標そのものをゼロから作り直す前に、次の点を確認してみましょう。
- 目標が自分の欲望と噛み合っているか、改めて確認する
- 期限や達成度の基準が曖昧になっていないか見直す
- 1つの目標を小さな行動(週単位・訪問単位)に分解し直す
よくある質問
個人目標は誰かに相談しながら決めたほうがよいですか?
1人で決めるよりも、上司や先輩に「自分がどの欲望を大事にしたいか」を話しながら決めるほうが、事業所の方針とのズレを防ぎやすくなります。面談の場を活用して、目標の方向性を一緒に確認するとよいでしょう。
4つの欲望のうち、複数が当てはまる場合はどうすればよいですか?
複数の欲望が重なっていても問題ありません。むしろ「資格を取得したい(獲得)」と「後輩に頼られたい(絆)」のように複数の欲望が結びついている目標のほうが、モチベーションを保ちやすい傾向があります。
新人看護師にも4つの欲望の考え方は使えますか?
使えます。新人の場合は「防御への欲望(体調を崩さずに働きたい)」や「理解への欲望(早く実務を覚えたい)」から目標を立てると、無理のない現実的な目標につながりやすくなります。
目標を立てても達成できないことが多いのですが、どうすればよいですか?
目標が大きすぎる、期限が曖昧、といったケースが多く見られます。SMART原則に沿って、まずは1〜2か月で達成できる小さな行動目標に分解し直すことをおすすめします。
個人目標と事業所の方針が合わないときはどうすればよいですか?
無理に一致させる必要はありません。事業所の重点課題と重なる部分があればそれを取り入れつつ、重ならない部分は自分の欲望を大事にした目標として別に持っておくとよいでしょう。目標が長く続けられることのほうが優先度は高いといえます。
まとめ|4つの欲望から、自分の言葉で個人目標を立てよう
意味のある個人目標は、他人の真似ではなく、自分自身の欲望から生まれます。獲得・絆・理解・防御という4つの欲望を出発点に、SMART原則で行動と期限まで落とし込めば、面談のためだけの目標ではなく、日々の仕事のやりがいにつながる目標になります。
- 個人目標が続かないのは「他人の真似」「行動につながらない目標」が原因になりやすい
- 獲得・絆・理解・防御という4つの欲望から、自分の望みを見つける
- SMART原則で「なりたい姿」を具体的な行動と期限に落とし込む
- 複数の欲望が重なる目標のほうが、モチベーションを保ちやすい
自分の欲望に正直に向き合うことが、無理のない個人目標づくりの第一歩です。
























