小規模(スタッフ5名以下)の訪問看護ステーションでもM&Aは可能?

「スタッフは5人以下、看護師も自分を入れて数名しかいない。うちみたいな小さな訪問看護ステーションを、わざわざ買いたい会社なんてあるはずがない」——そう思い込んで、資金繰りや採用難に一人で耐え続けていないでしょうか。

結論から言うと、その思い込みは実態と大きくずれています。むしろ看護職員数が5人未満の小規模ステーションは、業界の中では珍しい存在ではなく多数派です。本記事では、小規模な訪問看護ステーションでもM&Aの買い手がつくのかどうかを、公的データと買い手側の視点から具体的に解説します。

この記事でわかること
  • スタッフ5名以下の小規模ステーションが、実は業界の過半数を占めるという実態
  • 買い手が「事業規模」よりも重視している2つの評価ポイント
  • 小規模だからこそ得られる「雇用・地域医療・経営者自身」への3つの価値
  • 小規模M&Aで特に注意したい実務・費用面の落とし穴

小規模=対象外ではない|看護職員5人未満の事業所が実は過半数

「訪問看護ステーションのM&A」と聞くと、複数拠点を展開する中堅規模の事業所を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、厚生労働省の調査データを見ると、実際の業界構造はまったく違う姿をしています。M&Aの制度や基本的な流れそのものについては、姉妹記事「訪問看護ステーションにおけるM&Aとは?基本から分かりやすく解説」で整理していますので、ここでは「小規模でも売却できるのか」という一点に絞って解説します。

令和6年度の介護サービス施設・事業所調査をもとにした厚生労働省の資料では、訪問看護ステーションを看護職員数(常勤換算)の規模別に見ると、次のような分布になっています。

看護職員数(常勤換算)事業所の割合
2.5〜3人未満15.5%
3〜4人未満22.6%
4〜5人未満17.1%
5〜7人未満20.0%
7〜10人未満13.6%
10人以上10.4%

この表のとおり、看護職員5人未満の事業所を合計すると55.2%にのぼります。つまり、看護師の人数だけで見れば、業界の半数以上が小規模ステーションです。スタッフ全体(看護師以外の職種を含む)で5名以下という規模感であれば、なおさら珍しいものではありません。「規模が小さいから相手にされない」というのは、統計的に見ても正確な認識ではないのです。

看護師 上妻
看護師 上妻

「うちは小さいから」と一人で抱え込んでいる経営者の方、実は少なくありません。でも数字で見ると、少人数のステーションのほうが業界のボリュームゾーンなんですよね。買い手企業もそれを前提に候補を探しています。

買い手が本当に見ているのは「事業規模」ではない

では、なぜ小規模でも買い手がつくのでしょうか。理由は、買い手企業が評価しているものが、売上や拠点数といった「事業規模」そのものではないからです。訪問看護業界のM&Aで買い手が重視しているのは、主に次の2点です。

1. 在籍している看護師そのものの価値

訪問看護は慢性的な人材不足が続く業界です。求人広告や紹介会社を通じて一人の看護師を新規採用するには、決して小さくないコストと時間がかかります。すでに指定基準を満たして稼働している看護師が5名在籍しているという事実は、それ自体が買い手にとって数千万円規模の価値を持ちうる経営資源です。事業所の規模が小さくても、そこで働く看護師一人ひとりの専門性と実務経験は変わりません。

2. 地域で得ている指定(利用者基盤)そのものの価値

訪問看護ステーションの新規指定には、都道府県・厚生局への申請と一定の準備期間が必要です。すでにその地域で指定を受け、利用者との信頼関係を築いている事業所を引き継ぐことは、買い手にとってはゼロから地域に参入するよりもはるかに早く、確実に事業基盤を得る手段になります。利用者数が多いか少ないかよりも、「その地域に指定拠点として存在していること」自体に価値があるのです。

POINT

小規模ステーションの売却は、廃業コスト(退職金・賃貸解約の違約金・リースの残債一括請求・個人保証の返済など、数百万〜数千万円規模になり得る自己負担)をゼロにしたうえで、負債を引き継いでもらうか売却対価で相殺し、手元にリスタートのための安心なキャッシュを残せる「債務整理・再起の手段」でもあります。単なる資産の売却益という話ではなく、突然の廃業による自己破産リスクを避けるための現実的な選択肢だと捉えてください。

小規模ステーションが直面する経営課題と、M&Aで得られる3つの価値

スタッフ5名以下の事業所ほど、経営者一人に業務も判断も集中しがちです。採用がうまくいかず現場を回すだけで精一杯、24時間対応のオンコールが常に自分にのしかかる、報酬改定のたびに資金繰りが苦しくなる——こうした課題は、規模が小さいステーションほど深刻になりやすい傾向があります。M&Aによる大手・中堅グループへの参画は、こうした課題への現実的な処方箋になります。

  • 雇用の維持と処遇改善(大義):グループ全体の採用力・研修体制・給与水準を活用でき、スタッフを路頭に迷わせることなく、むしろ処遇を改善できる可能性があります。
  • 地域医療の持続(社会的責任):経営者が突然倒れて事業が立ち行かなくなれば、利用者は訪問看護そのものを失いかねません。信頼できる引き継ぎ先に事業を託すことは、地域の療養生活を守る責任ある選択です。
  • 債務・個人保証からの解放とリスタート(実利):経営責任と24時間オンコールの重圧から解放され、経営権を引き継いだあとは一人の看護師・現場プレイヤーとして、夜安心して眠れる生活を取り戻せます。

小規模ステーションほど、こうした3つの価値を実感しやすい面もあります。組織が小さい分、意思決定から引き継ぎ実務までのプロセスがシンプルになりやすく、大規模な多拠点法人の統合に比べて調整の負担が小さく済むケースが多いためです。

小規模だからこそ気をつけたい実務上の注意点

小規模ステーションのM&Aには、規模が小さいからこそ意識しておきたい実務上のポイントもあります。

管理者一人体制ゆえの「待ったなし」のリスク

スタッフ5名以下の小規模ステーションでは、経営者自身が常勤の管理者を兼ねているケースが少なくありません。管理者は「専らその職務に従事する常勤の保健師又は看護師」であることが指定基準上求められており、この管理者が体調を崩したり退職したりすると、事業所は指定基準を満たせなくなり、最悪の場合は運営自体が立ち行かなくなります。実際、厚生労働省の資料では、訪問看護ステーションの廃止理由として「従業員確保が困難(22.7%)」「管理職が退職した(17.6%)」が上位に挙げられており、人材の確保・維持が経営継続の生命線になっていることがうかがえます。規模が小さいほど、この「待ったなし」のリスクは大きくなります。

株式譲渡と事業譲渡、どちらを選ぶかで生じる空白期間リスク

M&Aの手法には大きく分けて「株式譲渡(経営権ごと引き継ぐ)」と「事業譲渡(事業のみを個別に引き継ぐ)」があります。事業譲渡を選ぶ場合、旧事業所の廃止届と新事業所の指定申請という行政手続きが発生し、この調整を1日でも誤ると数週間から1ヶ月にわたり介護報酬・診療報酬を一切請求できない「売上ゼロの空白期間」が生じるおそれがあります。資金繰りに余裕がない小規模ステーションほど、この空白期間は給与未払いや黒字倒産に直結しかねない深刻なリスクです。

注意

空白期間を避けるには、管轄の都道府県・厚生局との「同日廃止・同日新規指定」に向けた緻密な事前調整、あるいは空白期間が生じにくい株式譲渡への切り替え検討が必須です。小規模ステーションは行政手続きに割ける事務体制も限られていることが多いため、訪問看護の実務と行政手続きの両方を熟知した専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。

費用はどれくらい?小規模だからこその「手数料負け」に要注意

小規模ステーションの売却額は、大規模な多拠点法人と比べて数千万円規模にとどまることが少なくありません。ここで見落とされがちなのが、M&A仲介会社の「最低手数料」です。大手・中堅のM&A仲介会社の中には、最低手数料を1,000万〜2,000万円程度に設定しているところもあり、売却額そのものが小さい小規模ステーションの場合、手数料を差し引くと手元にほとんど残らない「手数料負け」が起こり得ます。相談先を選ぶ際は、成功報酬の料率だけでなく、必ず最低手数料の金額を事前に確認してください。

確認したい項目チェックポイント
最低手数料売却額が小さくても、最低いくら発生するか(大手・中堅では1,000万〜2,000万円程度のケースもある)
成功報酬の料率レーマン方式(売却価格に応じた段階的な料率)かどうか、料率は何%か
着手金・中間フィー成約前の段階で発生する費用の有無・金額
業界特化度訪問看護業界の実務・指定制度に精通しているか
看護師 上妻
看護師 上妻

「せっかく売却できても、手数料でほとんど残らなかった」という話は、規模の小さい事業所ほど起こりやすいんです。相談する前に、最低手数料が何円なのかだけは必ず確認してくださいね。

相談するタイミングは「限界を迎える前」が理想

帝国データバンクの調査によれば、2025年の全国全業種の後継者不在率は50.1%まで改善した一方、企業規模別に見ると「小規模企業」の後継者不在率は57.3%と全国平均を上回る水準にとどまっています。また業種別では「医療業」の後継者不在率が2025年時点で59.0%(2024年は61.8%)と、業種別ランキングでも上位に位置しています。この「医療業」は病院・診療所なども含む区分であり訪問看護ステーション単体の数値ではありませんが、医療・福祉分野全体で後継者問題が根強いことがうかがえます。小規模で人員に余裕がないステーションほど、後継者を社内で育てる時間的な余裕を持ちにくいのが実情です。

だからこそ、資金繰りや人材確保がぎりぎりの状態になってから動き出すのではなく、まだ経営に余力があるうちに無料相談・無料査定だけでも受けておくことをおすすめします。早めに動くほど、選べる引き継ぎ先の選択肢も、交渉できる条件の幅も広くなります。

  1. 要望ヒアリング売却をお考えになった経緯、希望金額、引退や次のビジネスへの展開といった将来像をヒアリングします。
  2. 書類準備直近3年分の決算書(損益計算書・貸借対照表)と税務申告書を準備します。
  3. 査定書類送付後、約2週間程度で査定結果が返答されます。結果を受けて買手企業への情報開示に進む場合は、仲介委託契約を締結します。

よくある質問

スタッフが5人以下の小規模ステーションでも、本当に買い手はつきますか?

つきます。厚生労働省の調査データでは、看護職員数(常勤換算)が5人未満の訪問看護ステーションが全体の55.2%を占めており、小規模は業界の中で珍しい存在ではありません。買い手企業は事業規模そのものよりも、在籍する看護師の人材価値や、その地域で得ている指定(利用者基盤)に着目して評価します。

赤字や資金繰りが厳しい状態でも相談できますか?

相談できます。事前相談・無料査定は無償で利用できるため、経営状態にかかわらずまずは相談することが可能です。財務状況によって評価は変わりますが、小規模であること自体が相談を諦める理由にはなりません。

株式譲渡と事業譲渡、小規模ステーションはどちらを選ぶべきですか?

事業所の負債状況や引き継ぎたい範囲によって適した手法は異なります。特に事業譲渡を選ぶ場合は、指定申請の空白期間(売上が発生しない期間)が生じるリスクがあるため、行政手続きに精通した専門家に事前に相談し、同日廃止・同日新規指定に向けた調整を綿密に行うことが重要です。

小規模ステーションの売却で、費用面で特に気をつけることはありますか?

M&A仲介会社の「最低手数料」を必ず確認してください。売却額が小さい小規模ステーションの場合、大手・中堅の中には最低手数料を1,000万〜2,000万円程度に設定しているところもあり、成約しても手元にほとんど残らない「手数料負け」が起こり得ます。成功報酬の料率と最低手数料の両方を事前に比較検討することをおすすめします。

スタッフに知られずに検討を進めることはできますか?

事前相談・無料査定の段階は、経営者ご自身の判断でどこまで社内に共有するかを調整しながら進めることができます。実際に買手企業への情報開示に進む段階になれば、事業所名を伏せたノンネームシート(会社概要)を用いるなど、段階に応じた配慮をしながら手続きが進められます。

まとめ|小規模だからこそ、早めの相談が選択肢を広げる

スタッフ5名以下、看護職員数が5人未満という規模は、訪問看護業界の中では特別なことではなく、むしろ過半数を占める標準的な姿です。買い手企業が評価しているのは事業規模そのものではなく、そこで働く看護師の存在と、地域で得ている指定という基盤です。

この記事のまとめ
  • 看護職員5人未満の訪問看護ステーションは全体の55.2%を占め、小規模は多数派である
  • 買い手が重視するのは「事業規模」ではなく、在籍する看護師と地域の指定そのものの価値
  • M&Aは雇用の維持・地域医療の持続・経営者自身の再起という3つの価値をもたらす
  • 管理者一人体制ゆえのリスク、指定申請の空白期間、最低手数料の罠には小規模ならではの注意が必要

「うちは小さいから」と諦める前に、まずは現状を専門家に相談してみることが、選べる未来の幅を広げる第一歩になります。

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ビジケアは、これまで訪問看護ステーションの経営サポートを通じて、数多くの事業所の課題に寄り添ってきました。その経験・知見・ネットワークを活かし、訪問看護ステーションに特化した事業承継・M&A支援サービスを提供しています。

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上妻 裕弥看護師/MBA取得
株式会社ビジケア代表取締役/看護師・MBA取得。これまで200社以上の訪問看護事業所へ経営コンサルティング・BPOサービスを実施。経営者・管理者のサロン等も含めると500社を超える。単月黒字化から複数拠点展開、事業承継まで支援し、看護師の視点で「続く経営」をつくる。別法人にて自身でも全国に訪問看護ステーション展開している。