高く売れる訪問看護ステーションの3つの特徴|M&A査定のポイント

「同じように訪問看護ステーションを経営していても、高く売れる事業所と、買い手すら見つからない事業所があるらしい」——M&Aを検討し始めた経営者の方が、まず気になるのはこの違いではないでしょうか。決算書の数字がすべてだと思われがちですが、実際に譲渡額を左右しているのは、それだけではありません。

この記事では、訪問看護ステーションのM&Aで評価額が上がりやすい3つの特徴を、中小企業庁「中小M&Aガイドライン」が示す企業価値評価の考え方や、訪問看護業界の統計データをもとに具体的に解説します。自社がどの特徴を満たしていて、どこに伸びしろがあるのかを確認する材料としてお使いください。

この記事でわかること
  • 訪問看護ステーションの譲渡額が決まる基本的な考え方
  • 評価額が上がりやすい訪問看護ステーションに共通する3つの特徴
  • 各特徴が、なぜ買い手にとって「価値」として評価されるのか
  • 評価を目減りさせてしまう手続き・費用面の落とし穴

そもそも「高く売れる」を決めるのはどんな考え方か

訪問看護ステーションのM&Aの全体像や基本的な流れについては、別記事「訪問看護ステーションにおけるM&Aとは?基本から分かりやすく解説」で紹介していますので、ここでは「なぜ評価額に差がつくのか」という一点に絞って解説します。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」によれば、中小企業のM&Aでは、貸借対照表の純資産を時価に引き直して評価する「時価純資産法」を中心に、「簿価純資産法」「類似会社比較法(マルチプル法)」といった複数の手法で算定した株式価値・事業価値をもとに譲渡額が交渉されるケースが多いとされています。そのうえで、算出された金額に、数年分の任意の利益(税引後利益や経常利益等)を上乗せする形で最終的な譲渡額が合意されることもあると明記されています。つまり、「今持っている資産の値段」だけでなく、「これからも安定して利益を生み続けられるかどうか」が、評価額に直接反映される仕組みになっているのです。評価方法ごとの考え方は、訪問看護ステーションの企業価値評価の基本で詳しく解説しています。

さらに同ガイドラインは、譲り受け側が評価する対象は収支・財務の状況だけに限られず、「高い技術力」「優良な取引先との人脈・商流」「優秀な従業員」「地域内・業界内における知名度・ブランド・信用」「許認可」といった無数の要素が評価され得ると述べています。訪問看護ステーションの場合、これは具体的に次の3つの特徴に置き換えられます。

特徴1|黒字の「質」が高く、利益の中身を説明できる

1つ目は、財務面での特徴です。厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」によると、令和6年度決算における訪問看護の収支差率(税引前)は10.3%で、全介護サービス平均の4.7%を大きく上回る水準にあります。業界全体としては、他の介護サービスと比べて利益を出しやすい構造にあるといえます。

一方で同じ調査では、訪問看護の38.2%が赤字事業所という実態も示されています。つまり「訪問看護だから自動的に高く評価される」わけではなく、同じ業界の中でも黒字の事業所と赤字の事業所がはっきり分かれているということです。買い手が重視するのは黒字額の大きさだけでなく、「その黒字が一時的な要因(補助金・単発の受注増など)ではなく、稼働体制や利用者基盤に裏打ちされた継続的なものかどうか」を説明できるかどうかです。収支の内訳を整理し、利益の中身を数字で語れる事業所ほど、時価純資産に上乗せされる利益評価の年数・金額が積み上がりやすくなります。

看護師 上妻
看護師 上妻

「なんとなく黒字」で終わらせず、どの利用者・どの加算がどのくらい利益に貢献しているのかを普段から整理しておくと、いざという時にご自身の事業所の価値を正しく伝えられますよ。

特徴2|看護師チームが定着し、稼働体制がそのまま引き継げる

2つ目は、決算書には表れない人材面の特徴です。訪問看護業界の人材不足は、他の医療・介護分野と比べても際立って深刻です。公益社団法人日本看護協会が公表した2024年度の調査では、都道府県ナースセンターの施設種類別の求人倍率のうち訪問看護ステーションが4.54倍と最も高く、全体の求人倍率2.51倍を大きく上回りました。

裏を返せば、買い手にとって「一から看護師を採用してチームを組成する」ことは、それ自体が極めて難易度の高い経営課題です。すでに看護師が定着し、離職が少なく、日々の訪問体制・オンコール体制が安定して回っている事業所は、その「稼働体制ごと引き継げること」自体が、中小M&Aガイドラインのいう「優秀な従業員」という無形の価値として高く評価されます。逆に、離職が続き常勤換算の人員基準を維持するのがやっとという状態では、買い手からみて「引き継いだ直後に体制が崩れるリスク」と映ってしまい、評価は伸びにくくなります。利用者数とスタッフ数のどちらが査定で重く見られるかは、利用者数とスタッフ数どちらが重要かで解説しています。

特徴3|指定・利用者基盤・書類やコンプライアンス体制が整っている

3つ目は、運営基盤の整備状況です。訪問看護ステーションを新規開設するには、保健師・看護師・准看護師を常勤換算で2.5人以上配置するなど一定の人員基準を満たしたうえで、都道府県・指定都市等から指定を受ける必要があります。ゼロから人員をそろえて指定を取得し、地域で利用者との契約を積み上げていくには相応の時間がかかるため、すでに指定を受けて稼働し、地域の利用者を確保していること自体が「業歴」「地域内における信用」として評価対象になります。医療保険・介護保険の両方に対応できる体制、24時間対応体制加算などの加算取得状況、実地指導への対応履歴、決算書・利用者名簿・雇用契約書等の書類整備状況も、買い手が確認する重要なポイントです。指摘事項が売却額にどう響くかは、実地指導・運営指導の指摘事項と売却額の関係で解説しています。

観点評価されやすい状態評価されにくい状態
指定・行政対応指定に関する行政処分歴がなく、実地指導にも対応済み指定取消や度重なる行政指導の履歴がある
利用者基盤利用者数が横ばい、または緩やかに増加している短期間で利用者数が急激に減少している
保険構成医療保険・介護保険をバランスよく取り扱っている特定の依頼元や紹介元に極端に偏っている
書類の整備状況決算書・利用者名簿・雇用契約書等が整理されている書類が未整備で、実態の把握そのものが困難
注意

財務・人材・運営基盤の3つが整っていても、M&Aの手法選びを誤ると評価は目減りしかねません。負債を切り離しやすい「事業譲渡」を選ぶ場合、買い手側が訪問看護の指定を新たに取得し直す必要があります。行政との調整が1日でもずれると、数週間から1ヶ月にわたり介護報酬・診療報酬が一切請求できない「空白期間」が発生し、資金繰りに影響するだけでなく、せっかく積み上げた利用者基盤の信頼まで揺らぎかねません。回避には、管轄の都道府県・厚生局との「同日廃止・同日新規指定」の緻密な調整、あるいは適切な株式譲渡への切り替えが必要になるため、訪問看護の実務と行政手続きの双方を熟知した専門家のサポートが欠かせません。

高く売れることは、経営者にとってどんな意味を持つのか

3つの特徴を満たし評価額が上がることは、単に「高く売れて得をする」という話にとどまりません。たとえ黒字であっても、経営者自身は資金繰りや24時間365日のオンコール対応に疲弊しているケースは少なくありません。評価額が上がるということは、それだけ経営者にとって重要な意味を持つ選択肢が広がるということです。

1. 雇用の維持と処遇改善(大義)

評価額が高いということは、買い手にとってもそれだけ積極的に投資する価値があるということです。経営基盤の安定した買い手に引き継がれれば、看護師・リハビリ職の雇用はそのまま維持され、給与体系や福利厚生の改善、慢性的な採用難への歯止めも期待できます。

2. 地域医療の持続(社会的責任)

訪問看護を必要とする利用者にとって、担当していたステーションが突然なくなることは、生活と療養の継続を脅かす重大な出来事です。評価される事業所ほど、良い条件で信頼できる買い手を選びやすくなり、利用者は同じステーション、あるいは同じスタッフから継続してケアを受けられます。

3. 経営責任とオンコールの重圧からの解放(実利)

そして経営者本人にとって最も切実なのが、この3つ目です。廃業を選ぶと、従業員への退職金、賃貸物件の違約金、リースの残債一括請求、経営者個人の保証債務の返済といった数百万〜数千万円規模の費用が発生し、最悪の場合は自己破産に至ることもあります。評価額の高いM&Aであれば、この廃業コストをゼロにしたうえで、負債を引き継いでもらうか売却対価で相殺し、手元にリスタートのための資金を残せます。何より、経営責任と24時間365日のオンコール対応の重圧から完全に解放され、一人の看護師・現場プレイヤーとして、夜、電話に怯えることなく眠れる生活を取り戻せることこそが、資金繰りとオンコールに疲弊した経営者にとってのM&Aの本当の価値です。

POINT

「高く売る」ことは目的ではなく手段です。評価額が上がるほど、雇用維持・地域医療の持続・経営者自身の再スタートという3つの選択肢の幅が広がる、という関係にあります。

注意点|評価額を目減りさせる「最低手数料」の罠

せっかく評価額が上がっても、仲介手数料の設計次第では手元に残る金額が想定より小さくなることがあります。M&A仲介の手数料は、一般的に成約額に応じて段階的に手数料率が下がる「レーマン方式」で算出されますが、大手・中堅のM&A仲介会社の中には最低手数料を1,000万円〜2,000万円程度に設定しているところもあります。訪問看護ステーションは、大企業のM&Aと比べて成約額そのものが小さくなりやすいため、最低手数料の壁に達してしまうと、評価額が上がった分の効果が手数料に吸収されてしまう「手数料負け」が起こり得ます。

POINT

相談先を選ぶ際は、手数料率だけでなく「最低手数料がいくらに設定されているか」を契約前に必ず確認してください。

看護師 上妻
看護師 上妻

「自分のステーションはこの3つに当てはまっているだろうか」と不安に思う方こそ、まずは無料査定で客観的な評価を知ることから始めてみてください。足りない部分がわかれば、これから整えていくこともできます。

よくある質問

訪問看護ステーションの企業価値は、具体的にどのように決まるのですか?

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」では、資産・負債を時価に引き直す「時価純資産法」を中心に算定した金額に、数年分の利益を上乗せして最終的な譲渡額が交渉されるケースが多いとされています。決算書上の資産だけでなく、今後も安定して利益を生み続けられるかどうかが評価に反映される仕組みです。

黒字ではありますが、利益率がそれほど高くありません。それでも評価してもらえますか?

利益率の高さだけがすべてではありません。看護師の定着状況や利用者基盤、指定・書類の整備状況など、決算書に表れない要素も含めて総合的に評価されます。赤字・債務超過の状態であっても買い手がつくケースはあり、まずは無料査定で自社の状況を確認することをおすすめします。

看護師の人数が少ない小規模な事業所でも、高く評価される可能性はありますか?

規模の大きさよりも、少人数であっても離職が少なく安定して稼働できているか、利用者基盤や書類が整理されているかが重視される傾向にあります。小規模だからといって評価をあきらめる必要はありません。

事業譲渡を選ぶ場合、企業価値評価で注意すべき点はありますか?

事業譲渡では、訪問看護の指定を買い手側で新たに取得する手続きが必要になります。行政との調整が1日でもずれると、数週間から1ヶ月程度、介護報酬・診療報酬を一切請求できない「空白期間」が生じ、積み上げてきた利用者基盤の信頼が揺らぐ可能性があります。同日廃止・同日新規指定の調整に慣れた専門家に早めに相談することをおすすめします。

無料査定を受けると、必ず売却しなければなりませんか?

いいえ。無料相談・無料査定の段階では、実際にM&Aを進めるかどうかを決める必要はありません。まずは自社の企業価値を客観的に把握し、今後の経営判断の材料として活用いただけます。

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訪問看護の最新の経営データ(事業所数・収支差率・人材動向)を詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

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まとめ|評価額は「決算書の外」にも積み上がっている

訪問看護ステーションが高く評価されるかどうかは、決算書上の資産だけで決まるわけではありません。利益の中身を説明できる財務体質、稼働体制ごと引き継げる看護師チームの定着、指定・利用者基盤・書類が整った運営基盤——この3つが積み重なることで、譲渡額の目安に上乗せされていきます。

この記事のまとめ
  • 中小M&Aガイドラインでは、時価純資産に数年分の利益を上乗せして譲渡額が交渉されるケースが多いとされている
  • 特徴1:黒字の「質」が高く、利益の中身を説明できること(訪問看護の収支差率は業界平均10.3%だが赤字事業所も38.2%存在)
  • 特徴2:看護師チームが定着し、稼働体制がそのまま引き継げること(有効求人倍率4.54倍という深刻な人材難の裏返し)
  • 特徴3:指定・利用者基盤・書類やコンプライアンス体制が整っていること
  • 評価額が上がっても、手法選びの空白期間リスクや最低手数料の罠で目減りさせないよう注意が必要

自社がどの特徴を満たしているか、まずは無料相談・無料査定で客観的に確認してみることをおすすめします。

訪問看護特化の事業承継・M&A支援「ビジケア」について

ビジケアは、これまで訪問看護ステーションの経営サポートを通じて、数多くの事業所の課題に寄り添ってきました。その経験・知見・ネットワークを活かし、訪問看護ステーションに特化した事業承継・M&A支援サービスを提供しています。

国が創設したM&A支援機関登録制度の登録を受け、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」の遵守にも取り組んでおり、ご相談・お相手探しにかかる着手金や中間金は一切無料(0円)です。

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上妻 裕弥看護師/MBA取得
株式会社ビジケア代表取締役/看護師・MBA取得。これまで200社以上の訪問看護事業所へ経営コンサルティング・BPOサービスを実施。経営者・管理者のサロン等も含めると500社を超える。単月黒字化から複数拠点展開、事業承継まで支援し、看護師の視点で「続く経営」をつくる。別法人にて自身でも全国に訪問看護ステーション展開している。