「後継者がいない」「このまま一人で経営を続けていけるだろうか」「人材確保がますます難しくなってきた」——訪問看護ステーションの経営者の方から、こうした悩みをよく耳にします。地域の在宅医療を支えてきた事業所ほど、この先どう続けていくかは重い問いです。
そうした選択肢の一つとして、近年広がっているのがM&A(事業承継の一手法としての会社・事業の譲渡)です。M&Aは、地域の医療・雇用を守る「大義」だけの話ではありません。廃業に伴う多額の自己負担(退職金・違約金・個人保証の返済など)を避け、経営者自身が手元にキャッシュを残してリスタートするための「実利」の選択肢でもあります。この記事では、訪問看護ステーションのM&Aとは何か、なぜ今増えているのか、具体的な進め方や費用感、注意点までを、業界特有の事情を踏まえてわかりやすく整理します。
- 訪問看護ステーションのM&Aとは何か、基本の考え方
- 訪問看護業界でM&Aが増えている背景
- M&Aの主な手法(株式譲渡・事業譲渡)と進め方の流れ
- 費用・手数料の考え方と、契約前に確認すべき注意点
- 相談を始めるタイミングと、相談先を選ぶときの視点
目次
訪問看護ステーションのM&Aとは?基本の考え方
M&Aは「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」の略で、会社や事業を他社に譲渡・譲受することを指します。訪問看護ステーションの経営における「事業承継」の選択肢としては、大きく次の3つに整理できます。
- 親族内承継:子どもなど親族に経営を引き継ぐ
- 従業員承継(第三者承継の一種):役員や従業員に引き継ぐ
- M&A(第三者承継):親族・従業員以外の法人・個人に譲渡する
訪問看護の現場では、後継者となる親族がいない、あるいは従業員に経営者としての引き継ぎを頼みづらいケースも多く、第三者への譲渡=M&Aを選ぶ経営者が増えています。廃業と違い、事業そのもの・従業員の雇用・利用者への訪問看護サービスを継続できる点が、M&Aの大きな特徴です。

「M&A」と聞くと大企業の話のように感じるかもしれませんが、今は小規模な訪問看護ステーションの事業承継でも一般的な選択肢になってきています。「廃業するしかない」と思い込む前に、まず基本を知っておくことが大切ですね。
なぜ今、訪問看護業界でM&Aが増えているのか
帝国データバンクが2025年に実施した調査によれば、全国企業の後継者不在率は50.1%で、前年から2.0ポイント低下したものの、依然として約半数の企業が後継者不在という状況です。特に小規模企業では不在率が57.3%と、大企業(24.9%)より高い傾向にあります。訪問看護ステーションの多くは中小・小規模事業者であり、この全国的な後継者不在の傾向と無縁ではありません。
訪問看護業界には、これに加えて次のような業界特有の事情があります。
- 経営者(多くは看護師資格を持つ創業者)自身の高齢化
- 24時間対応・オンコール体制を担う看護師の確保が年々難しくなっている
- 訪問看護ステーションの数自体が増え、地域内の競争が激しくなっている
- 制度改定(介護報酬・医療報酬)への対応や事務負担の増加
こうした背景から、「一人で抱え続けるより、経営基盤のある法人に引き継ぎ、利用者・従業員を守りたい」という考えで、M&Aによる事業承継を選ぶ経営者が増えているのです。

訪問看護ステーションM&Aの主な手法(株式譲渡・事業譲渡)
訪問看護ステーションのM&Aで実務上多く使われるのは、次の2つの手法です。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 譲渡の対象 | 会社そのもの(株式) | 事業・資産の一部または全部 |
| 訪問看護の指定 | 基本的に会社が保有する指定を維持しやすい | 買手が新たに指定申請を行う必要が生じる場合がある |
| 契約・許認可の引継ぎ | 会社単位のため個別の巻き直しが少ない | 契約・許認可を個別に引き継ぐ手続きが必要 |
| 簿外債務のリスク | 会社全体を引き継ぐため、買手側は事前調査(デューデリジェンス)を重視 | 譲渡対象を限定できるため、買手側のリスクを抑えやすい |
訪問看護ステーションは、都道府県・市町村による指定(人員配置基準・設備基準等を満たしていることの確認)を受けて運営しています。事業譲渡の場合、買手側で指定を新たに取り直す必要があり、行政との調整を1日でも誤ると、数週間〜1ヶ月にわたり介護報酬・診療報酬が一切請求できない「売上ゼロ」の空白期間が発生します。資金繰りに余裕がない事業所ほど、この空白期間はスタッフへの給与未払いに直結し、一瞬で経営が破綻(黒字倒産)しかねません。これを避けるには、管轄の都道府県・厚生局と調整した「同日廃止・同日新規指定」という極めて緻密な段取りが必須です。どちらの手法が適しているか、この空白期間リスクをどう防ぐかは、訪問看護の実務と行政手続きを熟知した専門家に、早い段階で相談することが欠かせません。
M&Aで得られる3つの価値と、解決できる経営課題
訪問看護ステーションがM&Aを選ぶことで得られる価値は、大きく次の3つに整理できます。単なる「メリット」の一覧ではなく、資金繰りや人材確保に日々追われている経営者が直面している個別の課題が、どう解決されるかとあわせて見ていきます。
1. 雇用の維持と処遇改善
信頼できる譲渡先に引き継ぐことで、従業員の雇用が継続されるだけでなく、譲渡先の経営基盤を活かした処遇改善や、単独では難しかった人材採用・教育体制の強化にもつながります。24時間対応・オンコール体制を担う看護師の確保が年々難しくなっているという業界共通の悩みに対し、譲渡先の採用力・組織力を活かして向き合えることが大きな価値です。
2. 地域医療の持続
廃業と違い、利用者様への訪問看護サービスが途切れることなく継続されます。制度改定や地域内の競争激化で先行きに不安を抱えていても、経営基盤の安定した法人に引き継ぐことで、事業所そのものの存続を確実にできます。後継者となる親族・従業員がいない場合にも、地域の訪問看護を絶やさないための有力な選択肢です。
3. 債務・個人保証からの解放とリスタート
M&Aの本質的な価値は、ここにあります。廃業を選んだ場合、スタッフへの退職金、事務所の賃貸解約違約金、リースの残債一括請求、融資の個人保証の返済などにより莫大な自己負担が発生し、最悪の場合は自己破産に至ります。一方でM&Aなら、赤字や実質債務超過の状態であっても、買い手企業は「在籍する看護師」「地域の利用者数(指定枠)」そのものに数千万円規模の価値を見出します。負債を引き継いでもらうか売却対価で相殺した上で、手元にリスタートのためのキャッシュを残し、経営責任と24時間のオンコールの重圧から完全に解放され、一人の看護師(現場プレイヤー)として夜安心して眠れる生活を取り戻すことができます。「自分が倒れて突然廃業し、スタッフや利用者を路頭に迷わせる」という最悪のシナリオを避けられることも、経営者にとって大きな安心材料です。

M&Aは「事業を手放す」というより、「これまで大切に育ててきた事業所を次の担い手に託し、経営者自身は現場に戻って安心して眠れる生活を取り戻す」というイメージで捉えると、経営者の方にとっても前向きに検討しやすいと思います。

訪問看護ステーションM&Aの進め方・流れ
一般的なM&Aの進め方は、おおむね次のようなステップで進みます。事業所の状況によって前後することもありますが、全体像として押さえておきましょう。
- STEP1 無料相談・要望ヒアリング売却を考えた経緯、希望条件(金額感・時期)、経営者自身の将来像(引退するのか、次の事業に進むのか)などをヒアリングする。
- STEP2 書類準備直近3年分の決算書(損益計算書・貸借対照表)、直近3年分の税務申告書など、無料査定に必要な資料を準備する。
- STEP3 企業価値の無料査定資料をもとに事業所の企業価値を算定してもらう。査定結果が出るまでの期間は依頼先によって異なるため、事前に確認しておく。
- STEP4 ノンネームシート作成・買手への初期アプローチ事業所名を明かさない形で概要をまとめた資料(ノンネームシート)を作成し、候補となる買手にアプローチする。
- STEP5 初期Q&A・トップ面談関心を示した買手候補との質疑応答や面談を重ね、条件面の認識を合わせる。
- STEP6 基本合意の締結主要な条件(価格の目安、独占交渉権の有無など)について、買手・売手双方が基本合意を結ぶ。
- STEP7 デューデリジェンス(買収調査)買手側が財務・法務・労務などの実態を詳細に確認する。売手側は資料提出やQ&A対応を行う。
- STEP8 最終契約・成約デューデリジェンスの結果を踏まえて最終条件を交渉し、契約締結・クロージング(成約)に至る。
費用・手数料の考え方
M&A支援を専門業者に依頼する場合、費用の多くは「成功報酬型」、つまり成約時にはじめて手数料が発生する形が一般的です。相談自体や、初期の無料査定までは無償で対応している業者も多く見られます。
成功報酬の算定によく使われるのが「レーマン方式」で、譲渡価格の金額帯に応じて手数料率が段階的に下がる仕組みです(例:一定額以下の部分は5%、それを超える部分は4%……といった形)。ただし、手数料率そのものより注意すべきなのが「最低手数料」の設定です。
大手・中堅のM&A仲介会社の中には、最低手数料を1,000万〜2,000万円程度に設定しているところもあります。小規模な訪問看護ステーションで、仮に売却額が1,500万円だったとしても、この最低手数料がそのまま適用されれば手数料でほとんどが消えてしまい、売主の手元には1円も残らない「手数料負け」が起こり得ます。契約前には、手数料率だけでなく最低手数料の有無・金額を必ず確認しましょう。
M&A支援業者には、買手・売手の双方から依頼を受けて仲介する「両手取引」の業者と、売手(または買手)どちらか一方の利益のためだけに動く「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」の業者があります。両手取引には利益相反(買手に有利な条件で進めようとするインセンティブが働く可能性)のリスクが指摘されており、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、仲介者・FAの手数料や提供業務内容を事前にしっかり説明することが求められています。どちらの形態で支援してもらうのかは、契約前に必ず確認したいポイントです。
訪問看護ステーションM&Aで失敗しないための注意点
訪問看護業界に理解のある相談先を選ぶことが、M&Aの成否を大きく左右します。訪問看護の指定基準・加算算定・人員配置の実情を理解していない相談先では、企業価値の評価や買手候補との交渉がかみ合わないことがあります。
- 相談先が訪問看護業界の実情に詳しいか(指定基準・加算・人員配置への理解)
- 「中小M&Aガイドライン」を遵守しているか(手数料・業務内容の説明が明確か)
- 両手取引かFAサービスか、報酬の発生条件を事前に確認しているか
- 後継者不在に気づいた時点で、早めに相談を始めているか(時間的な余裕があるほど選択肢が広がる)
- 従業員・利用者への説明タイミングを、相談先とすり合わせているか
よくある質問
訪問看護ステーションのM&Aにはどのくらいの期間がかかりますか?
事業所の状況や相手探しの進み方によって幅がありますが、無料相談から成約まで半年〜1年程度かかるケースが一般的です。買手候補が早く見つかった場合はより短期間で進むこともあります。焦って進めるとかえって条件面で不利になることもあるため、時間的な余裕を持って早めに相談を始めることをおすすめします。
小規模な訪問看護ステーションでもM&Aの対象になりますか?
はい、小規模な事業所でもM&Aの対象になります。むしろ後継者不在に悩む小規模事業者は多く、地域での訪問看護ニーズや利用者との関係性、スタッフの経験・専門性などが評価される要素になります。まずは無料相談・無料査定で、どのような評価になるかを確認してみるとよいでしょう。
相談したら必ず売却しなければいけませんか?
いいえ、無料相談や無料査定の段階では売却の義務は発生しません。査定結果や買手候補の状況を確認したうえで、実際に売却に進むかどうかを検討できます。仲介委託契約などを締結する前であれば、じっくり検討する時間を確保できます。
従業員や利用者への説明はいつ行うべきですか?
一般的には、基本合意や最終契約が固まる前の段階で情報が漏れると、従業員の不安や離職、取引先への影響が生じるリスクがあるため、相談先の助言のもとで適切なタイミングを選ぶことが重要です。多くの場合、契約締結の前後で経営者から直接説明を行い、その後の引き継ぎ方針を丁寧に共有していく進め方が取られます。
M&Aの相談はいつ始めるのがよいですか?
「後継者がいない」「この先の経営に不安がある」と感じた時点で、早めに相談を始めることをおすすめします。相談してすぐに売却する必要はなく、無料相談・無料査定を通じて自社の状況を客観的に把握しておくこと自体に価値があります。時間的な余裕があるほど、より条件の良い相手を探せる可能性が高まります。
まとめ|訪問看護ステーションのM&Aは「事業を託す」事業承継の選択肢
訪問看護ステーションのM&Aは、後継者不在や経営環境の変化に対応するための、有効な事業承継の選択肢です。廃業ではなく事業を継続させ、利用者・従業員を守りながら、経営者自身も次のステップに進める可能性があります。

- M&Aは「地域医療・雇用を守る」という大義だけでなく、廃業コストを避けて手元にキャッシュを残す、経営者自身のための「実利」の選択肢でもある
- M&Aは、親族内承継・従業員承継と並ぶ、事業承継の選択肢の一つ
- 後継者不在率50.1%(帝国データバンク2025年調査)という全国的な傾向に加え、看護師確保の難しさなど業界特有の事情から、訪問看護業界でもM&Aの検討が広がっている
- 主な手法は株式譲渡・事業譲渡の2つ。事業譲渡は指定の空白期間(売上ゼロ・黒字倒産)のリスクを伴うため、行政対応に精通した専門家への相談が欠かせない
- 進め方は無料相談→書類準備→査定→交渉→契約という流れが一般的
- 費用は成功報酬型が一般的。仲介かFAかの違いに加え、「最低手数料」の設定次第で手数料負けが起こり得る点も事前に確認する
「まだ売却するかは決めていない」という段階でも、まずは無料相談・無料査定で自社の状況を把握しておくことが、後悔のない選択につながります。
訪問看護特化の事業承継・M&A支援「ビジケア」について
ビジケアは、これまで訪問看護ステーションの経営サポートを通じて、数多くの事業所の課題に寄り添ってきました。その経験・知見・ネットワークを活かし、訪問看護ステーションに特化した事業承継・M&A支援サービスを提供しています。
ビジケアでのこれまでの関わり・繋がりから、中長期的に安心・信頼できる譲渡先を探していく方針をとっており、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」の遵守にも取り組んでいます。
支援の範囲は、事前相談・無料査定から、その後の買手への初期アプローチや基本合意サポート、企業価値算定、トップ面談・交渉サポートなどのご成約に至るまでのプロセスを一貫してサポートします。
ビジケアは、訪問看護業界に特化した経験・知見・ネットワークを活かし、売手側の利益最大化に専念してご支援します。事前相談・無料査定は無償でご利用いただけます。
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